より現実的な議論が活発に
情報通信総合研究所の中村邦明氏は、2018年2月にバルセロナ(スペイン)において開催された世界最大級のモバイル関連カンファレンス「Mobile World Congress 2018」(以下、MWC 2018)における内容を中心に海外の動向を解説した。
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ここ数年、MWCのテーマといえばIoT、コネクテッドカー、5G、AIアシスタントなどがトレンド。MWC 2018も、前年に引き続き5GとAIが主要テーマになった。しかし、2017年までは5G導入により世界がどう変わるのか”理想の未来像”が多く描かれてきたのに対し、MWC 2018ではより現実味のある内容に変わったという。
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米国が「自称5G」で急ぐのはなぜ?
米国キャリア各社は、2018年内にも国内で5Gを商用化するとしている。各国に先駆けて5Gによるサービスが展開される形だが、どのような事情があるのだろうか。
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Sprintでは、2018年4月までに2.5GHz帯を活用したMassive MIMOによるスマートフォン向け5Gを米国6都市で展開するとしている。これについて中村氏は「2.5GHz帯を使い、Massive MIMOを利用している点で、5Gと呼ぶには疑問に思える部分もある。あくまでSprintが自称する5Gということになる」と補足した。
T-Mobile USでも、2018年内に600MHz帯による5Gネットワークを30都市で展開するとしている。しかし、5Gにおける周波数の主流となるミリ波(28GHz帯、39GHz帯)によるサービスについては「まだ検証の余地がある」とする。5G開始当初は、Gbps単位のデータ速度も実現できない模様。こちらもT-Mobile USが自称する5Gということで区別して考える必要があるようだ。
Verizonでは、2018年下半期までに5G FWA(固定無線アクセス)の提供を開始する。またAT&Tも同様に、2018年度内の5G FWAの商用展開を目指している。FWAは各家庭と無線基地局を結ぶ技術。Verizonでは5G FWAの導入を進めつつ、モバイル向けの5Gネットワークについても開発していくとしている。
米国勢の展開について、中村氏は「ブロードバンドという側面で5Gを活用している。彼らが5Gに取り組む背景には、固定回線によるインターネット環境が(日本ほど)整備されていない実情がある。光ファイバーを整備するにしても、これから各家庭まで引き込んでいくとかなり大変なので、5G FWAを活用することで、費用の削減をはかっている」と解説した。
欧州、韓国の状況は?
欧州やアジアでは、どのような進捗状況なのだろうか。
ドイツテレコムでは、2020年までに5Gネットワークを導入する意向。2018年には研究開発費として125億ドルを投資する。なおHuawei社と共同でミリ波(73GHz)を活用した5Gトライアルに成功した、といった成果も発表している。
Vodafoneでは、2017年12月からミラノ(イタリア)で大規模な5Gのトライアルを開始している。2019年にはミラノ全域に5Gの試験ネットワークを展開する予定。5Gコネクティビティの技術的な実証実験だけでなく、5G活用のコネクテッド救急車、交通管理、果てはドローンと絡めた監視・メンテナンスサービスなど、実用的な実験にも積極的に取り組んでいるという。
韓国KTは、平昌オリンピックにて5Gを活用したサービスを試みた。ボブスレーの選手の目線でリアルタイムの映像を楽しめる「Sync View」、アルペン競技の選手の位置や状況をリアルタイムで把握できる「Omni View」、フィギュアスケート選手の演技を360度好きな視点から楽しめる「Interactive Time Slice」など、いくつかのサービスを5Gを活用することで成功させている。一方で、周波数帯の確保、機器のさらなる小型・軽量化、効率的な設備展開などの課題も把握。今後に活かすとしている。
もちろん、日本の企業も5Gを活用したサービスに積極的に取り組んでいる。中村氏によれば「NTTグループのブースが世界各国から注目されていた。これまでのMWCを振り返っても、類を見ないほど存在感があった」とのこと。展示内容については弊紙でも詳しく紹介しているので、そちらを参照して欲しい。
※5Gで何ができる!? 2020年の実用化に向けてドコモが様々なユースケースを提示
企業はネットワークスライシングに期待
5Gをビジネスに利用したい企業からは、キャリアに対する様々な要望があがっている。サービスが現実味を帯びてきたことの裏返しとも言えるだろう。ここで、大きなポイントとなる「ネットワークスライシング」について説明しておきたい。これにより企業は、高速・大容量、超低遅延、多数端末接続といった5Gネットワークの特徴のうち、ニーズに沿った要素だけを仮想的に分割(スライス)して使うことができるのだ。
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トヨタでは、コネクテッドカーにおいて激増するトラフィックを5Gネットワークで解決することを考えている。しかしクラウドと連携するITS(高度道路交通システム)と、車載情報システムと、ビッグデータシステムでは、それぞれ必要とするネットワーク要件が異なる。このためネットワークスライシングにより、サービスに最適なネットワークが提供されることに期待している。
ドイツのBoschが要求するのは「ユースケースごとのスライス」「ネットワークスライスを10分以内で確立」「国をまたいだネットワークスライシング」といったもの。これまでの技術では不可能だったアプリを実現させ、また既存のユースケースを進化させるために必要と説明している。
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各国、それぞれの事情や思惑がある中で進んで来ている「5G」への取り組みだが、いよいよ標準化がせまってきた。すべての技術仕様要件は2019年内に策定される見通しになっている。産業界からのアプローチも活発化して来た中で、5Gによって実現する社会というものが、今後ますます具体的になっていくはずだ。
※今さら?いや、今こそ学びたい「5G」……その特徴と実現できる世界とは?