KDDI、応用地質、トヨタ自動車の3社は24日、IoTで防災・減災を実現するデータ協業に合意した。ビッグデータの解析により地震、台風、局地的大雨、土砂災害、雪害といった自然災害から人々を守る環境の構築を目指していく方針。2019年の商用化を視野に、地方自治体においては実証実験も開始する。

3社の協業で実現する災害対策
3社では、国や自治体の意思決定の精度とスピード向上を支援する「国・自治体向け災害対策情報支援システム」の構築を目指している。同システムで重要なカギを握るのが、KDDIとKDDI総合研究所による新技術「人口動態分析/予測」だ。これにより、国内の任意エリアにおける人口動態の推定および未来予測をリアルタイムにおこなえるようになった(詳細は後述)。
KDDI ソリューション事業本部の原田圭悟氏は「地球温暖化により災害が激甚化している。国内においては少子高齢化により、今後は災害時の避難行動要支援者の増加も懸念されている」と指摘。したがってIoTとビッグデータによる情報支援システムの確立が急務だと説明した。

応用地質は、これまで国、自治体、各種研究機関を対象に防災・減災のコンサルティングをしてきた。自然災害を常時監視する各種センサー類(水位計、傾斜計、地震計、冠水センサーなど)に強く、これを本取り組みでも活かしていく方針だ。代表取締役社長の成田賢氏は「これまで防災対策に貢献してきたノウハウとリソースを最大限提供していく。防災行動計画(タイムライン)の運用を支援し、減災効果と住民の安全確保に貢献したい」と話した。

トヨタでは「モビリティサービス・プラットフォーム」から統計処理された、交通情報プローブ、ハザードランプ作動、外気温などを本システムに提供する。トヨタ自動車 コネクティッド統括部の田村誠氏は「混雑状況など、通行実績を見える化することで安心・安全なまちづくりに貢献したい」と抱負を述べた。

一週間先の人の流れを予測する「人口動態分析/予測」
ここでKDDIの提供する人口動態分析/予測について、もう少し深く紹介したい。同技術はこれまでKDDI総合研究所が取り組んできた、位置情報ビッグデータを活用した移動手段および経路の推定等の行動分析技術をベースにしたもの。GPSデータを中心とした位置情報ビッグデータを用いることで、任意エリアの人口分布だけでなく、移動者数や滞在者数、鉄道路線や走行道路ごとの移動者数等の詳細情報をリアルタイムに推定、予測する。
具体的には、30分前までの情報を利用し、15分ごとに結果を出力できる仕様。また過去と現在の傾向から、一週間先の人の流れまで予測できる。この技術をもとに、災害時には道路状況や避難場所の混み具合を把握していく。

避難場所の空き状況や、避難者の世代を把握し、最適な支援物資を届けることも
原田氏は、熊本地震のときのデータを参照しながら次のように説明した。「データを分析すれば、地震前は賑わっていた繁華街に、地震後は人がいなくなり、そのかわり避難場所に人が集まっているのが把握できる。避難場所の空き具合まで分かるので、混雑している避難所から人を誘導できる。また避難者の世代も分かるため、最適な物資を運ぶことができる」。これらの分析技術により、熊本地震のときは実現できなかった避難者支援の取り組みにも積極的にかかわっていく考えだ。

ちなみに本技術における位置情報ビッグデータとは、KDDIがauスマートフォンユーザー同意の下で取得し、誰の情報であるかわからない形式に加工した位置情報データおよび属性情報(性別・年齢層)のことを指している。いまKDDIでは、全国のユーザー(数百万人規模)の位置情報ビッグデータを活用できる状態にあるという。
囲み取材に対応した原田氏は、競合サービスについて聞かれると「クルマとスマホを組み合わせたサービスを提供している会社さんは他にない。タイムライン機能、未来予測機能なども我々の強み。従来のサービスとは一線を画している」と説明。
なおNTTドコモでも、日本全国の人の動きを捉える技術を開発している。これとの比較について問われると「他社さんのサービスなので正確なところまで把握できていないが、我々は(他社より間隔が短い)15分ごとにデータを取得している。他社さんは基地局のデータを使っているが、我々はより精度の高いGPSのデータを利用している」と説明した。