一方,図1(b)では,3チャネル繰り返しによってセル間干渉は回避され,その影響を低減できますが,利用可能な帯域幅が3分の1となるため,十分な通信速度を確保できません.これらのことから,干渉による通信品質の劣化を管理し,かつ限られた周波数資源を効率良く運用しながら,大容量の無線アクセスを広域に提供するための技術が求められています.この課題に対し,フラクショナル周波数繰り返し(FFR: Fractional Frequency Reuse)(※1),および基地局連携技術(※2)が注目されています.
基地局連携技術は,LTE-Advancedにおいても現在標準化が進められており,その特徴としては,高速な有線回線を介して集中制御局と接続された複数の基地局が連携して動作することが挙げられます.複数基地局にまたがる送信・受信の信号処理機能を集中制御局へ集約し,一括して行うことで各基地局アンテナの指向性を制御し,セル間干渉を除去することが可能な技術です.原理的には,広範囲にわたる多数の基地局が連携動作を行うことで1チャネル繰り返しによる面的展開が可能になります.しかし膨大な数の送受信信号,および基地局と端末局間の伝搬路情報(CSI:Channel State Information)を用いる信号処理を,1つの集中制御局において実施することは困難です.
提案技術による周波数利用効率の改善効果を検証するために,計算機シミュレーションを行いました.そのときのシミュレーションパラメータを表に示します.遠方の基地局からの干渉の影響を十分に考慮するため,セルは図2のように6角形状に61セル配置し,中心の1セルにおける周波数利用効率を評価します.本評価では全セルをセル間干渉キャンセラ適用の対象とし,干渉レプリカ信号の繰り返し生成回数を,十分な干渉低減効果が得られる2回目まで行います.基地局の送信電力はセルエッジにおける端末局当りの平均受信信号対雑音電力比(SNR: Signal to Noise power Ratio)によって定まるものとし,本評価ではその値を10dB(RF=1の場合に換算)とします.そして信号対干渉雑音電力比(SINR: Signal to Interference and Noise power Ratio)分布の観点から各方式を公平に比較するために,基地局の送信電力は全基地局合計で一定とします.端末局は各セル内の領域に一様に分布するものとします.セル中心領域の半径,つまりセルエッジ領域との境界であるrinnerは端末局における平均受信SINRによって定められるものとし,受信SINRがしきい値より大きければセル中心領域,小さければセルエッジ領域に割り当てられます.
しきい値SINRにおける周波数利用効率のセル平均値を図4に,累積確率分布(CDF: Cumulative Distribution Function)が5%の値を図5に示します.提案技術との比較として,セル間干渉キャンセラを適用しない,FFRのみの場合の特性も示します.横軸のしきい値SINRが小さいほどセル中心領域は大きく(大部分がRF=1の状況),一方,しきい値SINRが大きいほどRF=3が支配的な状況に近づくことを意味します.
【参考文献】 (1) R1-050507:“Soft Frequency Reuse Scheme for UTRAN LTE,”Huawei. 3GPP TSG RAN WG1 Meeting #41, Athens, Greece, May 2005. (2) H. Zhang and H. Dai:“Co- channel Interference Mitigation and Cooperative Processing in Downlink Multicell Multiuser MIMO Networks,”EURASIP JWCN, Vol.2004, No.2,pp.222-235, 2004. (3) K. Maruta, A. Ohta, M. Iizuka, and T.Sugiyama:“Spectral Efficiency Improvement of Fractional Frequency Reuse by Inter-Cell Interference Cancellation on Cooperative Base Station,”IEICE Trans. Commun., Vol.E95-B, No.6, pp.2164-2168, 2012.