
嵐山駅では、大型のデジタルサイネージが訪れた観光客を出迎えていた。タッチパネルに対応した双方向のシステムで、東京ではちょっとお目にかかれないような機能も搭載している様子。そこで関係者に詳しい話を聞いた。

サービスの概要と狙い
本サービスを運営している島津アドコムの中島輝氏は「嵐山は、有名な観光地ではあるけれど...」と前置きした上で、現地がいま抱えている課題について言及した。その内容は後述するとして、まずはサービスの概要について紹介しておこう。同社では京都府、京福電鉄、東映京都スタジオの協力を得て、いくつものユニークなサービスを提供している。デジタルサイネージにはシスコシステムズの55インチ 4Kタッチパネル「Cisco Vision」を利用した。

コンテンツは日・英・中の3カ国語に対応している。ベーシックな機能としては、嵐電の乗り方(初心者には難しい)および時刻表、現地の天気情報の表示が可能。また嵐電の沿線で開催しているイベント情報もリアルタイムで載せている。筆者が訪れた日には、3月25日に開催の「西院車庫に集まろう!らんでんフェスタ2018」の告知がおこなわれていた。

観光客に好評なのが、京都のベンチャー企業が開発したデジタル地図「Stroly」(ストローリー)だ。周辺の店舗情報を案内するサービスで、参照した情報はQRコードを通じて利用者のスマートフォンにも表示できる。飲食店や土産物店に行くと使えるクーポンとの連携も考えられており、お得感が強い。なお将来的な話として、中島氏は「(個人情報の取り扱いに充分に配慮した上で)観光客のスマートフォンのGPSを追跡してヒートマップを表示することも可能です。観光客の属性と嵐山エリアにおける足取りを分析すれば、観光の促進にもつなげられます」と解説した。

また、京都市下京区に本社を置くベンチャー企業 アドリンクが提供する外国人観光客向けの通訳 / 観光ガイドアプリ「TriPeer」もサイネージで紹介されていた。ビデオ通話で、多言語話者(コンシェルジュ)によるサポートが受けられる同サービス。表示するQRコードから、任意でアプリをダウンロードできる。訪日外国人に重宝されるだろう。

観光地のデジタルサイネージでは、しばしば情報の更新頻度の低さが問題になる。そこでSpecteeの「Localive!」を活用、個人のSNSと連動させた。具体的には、嵐山の周辺で撮影されTwitter / Instagramにアップされた写真をサイネージ上で参照できるようにしている。同サービスにより、個人店の規模でおこなわれている局所的なイベントであったり、「何処で桜が見頃だ」といったリアルタイムな情報も追うことが可能になった。

本事業では観光客の満足度の向上のほか、人の回遊も狙っている。「嵐山は有名な観光地ではあるけれど、渡月橋から離れた地域には、あまり訪れてもらえていません。定番のコースだけ歩いたら帰ってしまう観光客に、周辺の見どころも広く紹介できれば」と中島氏。たしかに渡月橋の周辺には天龍寺、野宮神社、竹林の小径といった名所があり、また少し足を伸ばせば二尊院、常寂光寺、落柿舎、松尾大社、鈴虫寺、地蔵院などのスポットもある。運営側はサイネージを起点に、こうした地域にも誘客できる仕組みをつくっていきたい考えだ。

サービス持続のため、オール京都で!
事業の立ち上げに際しては、京都府の力添えも大きかったとのこと。しかし「自治体の補助金が頼みの事業では、補助金が切れたときに早々に立ち行かなくなる」(中島氏)といった危機感も持ち合わせている。システムの保守費用、コンテンツ費用、サーバーの運営費用、機器を設置するスペースの費用などを、どうまかなっていくか。やはり、スポンサー企業の広告が欠かせないようだ。
「近隣の飲食店、土産物店などに協力をあおいでいる。京都の観光を活性化させたい、という思いを共有いただける企業とコラボできれば」と中島氏。サイネージでは、操作のないときに広告が表示されるほか、2枚のモニターでも常時広告を配信する。2月1日にスタートした本事業は、取り敢えずの区切りを7月末に定めている。同氏は「今後も長く続けていきたい。いまはスポンサーも探しながら展開している状態。どこまで独立採算で運用できるか見極める」と話す。

既述の通り、事業には京都のベンチャー企業が複数協力している。オール京都で取り組む体勢には、手応えと心強さを感じているという。個々のコンテンツの利用率を見て、これからもサービスを拡充していく考えだ。なお、Cisco Visionは同時に20台まで連携できる仕様。本事業をビジネスラインに乗せた暁には、サイネージの数を増やすほか、京都府のほかの地域への展開も視野に入ってくる。中島氏は「そうすることで広告の価値も上がり、利便性も増していくでしょう。京福電鉄さんに限らず、ほかの公共交通機関などにも提供していけたら」と抱負を口にしていた。
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