
・気軽に打楽器が練習できる「スマート電子ドラム」
フランスから出展したスタートアップ、Redisonの「Senstroke」は来場者の目をひときわ引いていた。こちらはドラムスティックや足の先に装着して使う、電子ドラムセットのシミュレーターキットだ。楽器の練習、またはエンターテインメント用のガジェットとして、フランスでは220ユーロ(約26,000円)で発売している。


スティックにセンサーを装着して、モバイルアプリとBluetoothでペアリングする。続いてアプリからどの場所をどうたたけば、ドラムセットのどの楽器の音が再現されるかをセットアップする。あとはスティックでテーブルなどをたたくとタブレットやスマホに内蔵されているスピーカー、または接続した外部スピーカーやヘッドホンからリアルなドラムの音色が聞こえてくる。


スティックでたたく場所はテーブルでもいいし、自分のひざなど体の一部でも良いのだが、ドラムの音をしっかりと聴きながら演奏したい場合は、スティックでたたいた衝撃を吸収してくれるゴムパッドなどを用意した方がいいだろう。同社のスタッフは日本からIFA NEXTに視察に来ていたトレードビジターから、本機を扱いたいという引き合いもいくつかあったと話していた。ぜひ日本で発売されたら試してみたいものだ。
・スマホの音楽に合わせて「振動を感じるベルト」
地元・ベルリンで2018年に起業したばかりのスタートアップ、Feelbeltが商品化を目指すのは、Bluetoothでペアリングしたスマホで再生している音楽に合わせて振動するベルト型のウェアラブルデバイス「Feelbelt」だ。“感じるベルト”という、その名前の通り、音楽や映画のサウンドを身体で味わうために作られた。筆者も体験してみたが、かなり強烈な振動に驚いた。


最初はシンプルにエンターテインメント用として開発を進めていたが、IFA NEXTの来場者からマッサージ用にもいい、難聴者の聴覚支援に活かせないのかなど様々な意見が寄せられたことから、速くも“第2弾”のプロダクトのアイデアが固まりつつあるとブースのスタッフが話していた。まずは10月に始まる予定のクラウドファンディングを成功させて、同社初の製品としてFeelbeltを世に送り出したいものだ。
・地球にやさしい「スマートガーデニングキット」
ヨーロッパでは再び大きなエコロジーブームが訪れようとしている。世界中で不必要なプラスチックの利用を削減して、より再生利用がしやすく、地球にやさしい素材を選択、そして暮らしを追求するスタートアップの製品やサービスがIFA NEXTの会場でも目立っていた。


フランスのVeritable Potagerは、スマホで成長管理ができるスマートガーデニングキット「Veritable」を発売している。植物の種と肥料をあらかじめセットしてあるカートリッジを本体に装着して、タンクに水を入れておく。あとは本体を電源に接続して、植物の生育を促す青色のライトを照射するだけで、数週間でミニ野菜やハーブを簡単に育てられる。
スタッフに訊ねると「自分が食べるぶんだけの食物」を賢く消費するというライフスタイルがいまヨーロッパの都市生活者の間で注目されているそうだ。世界人口の拡大と中流階級化がこれからもますます進むことによって、家庭で肉やコーヒーなどの嗜好品を手に入れて楽しめなくなる時代が間もなくやってくると言われている。IFAの会場を見回してみると、Veritable以外にもスマートガーデニングキットを展示している企業の数は少なくなかった。
・いつでもワインが「1杯からおいしく飲めるスマートディスペンサー」
イタリアのスタートアップ、nexmaが展示した「Albicchiere」はスマート・ワイン・ディスペンサーというカテゴリーをうたっている。これは本体のクーラー付タンクにワインを入れておけば、ワインの味が落ちることがなく、毎日少しずつ飲みながら楽しめるという製品だ。ワインのリフィル用パッケージもガラスのボトルではなく、様々な産地や味のワインが紙パックに入った状態でデリバリーされる商品をECサイトで購入するシステムだ。


ワインの味は好きだけれど、アルコールに弱いので少しずつしか飲めないという方には魅力に感じられるアイデアだと思う。ただ一方で、ヨーロッパには1食ごとにワインのボトル1本を軽々と飲み干してしまう家庭も多いと聞く。10月から始まるクラウドファンディングがどのような成果を残せるのか気になるところだ。
・「世界のお菓子」を家庭で手軽につくれるスマートベーカリー
はるばるアルゼンチンからベルリンにやってきたスタートアップ、Tigoutはスマートベーカリーのコンセプトモデルを出展した。ファウンダーがネスプレッソのエスプレッソマシンから着想を得たというこのスマートベーカリーは、マフィンを焼くための「カプセル」を本体のプレートに装填して、メニュー画面から作りたいお菓子を選択してスタートボタンを押すだけで、手間なく簡単にお菓子を焼いて楽しめるというキッチンアプライアンスだ。


ここまでの説明ではそれほど“スマート”な家電のようには思えないかもしれない。実は本体にはWi-Fiによる通信機能が搭載されているので、レシピをアップデートすれば、現在調理できるマフィンやオートミールクッキーなど12種類のお菓子以外にも「世界の様々なお菓子」が手軽につくれるようになるという。もちろんそれを実現するためには、あとは焼くだけの状態まで調理された専用カプセルも必要だ。今年初めてIFA NEXTに出展したところ、カプセルを共同開発してくれそうな世界各国のパートナーとの協業のチャンスが見えてきたと、同社のスタッフは意気揚々と話していた。確かに、自分の国では簡単に楽しめないお菓子を手軽に自宅でも楽しめたら、食文化を変革するアイデア商品に化けるかもしれない。
コンシューマーエレクトロニクスのイベントであるIFAからスピンアウトしたIFA NEXTには、スタートアップ各社が開発を進めているハードウェアの数々を実際に触って体験できるプロトタイプや模型が数多く集まっている。こうした「カタチある展示」は一般来場者の興味を惹きつけるだけでなく、商品やアイデアを買い付けにくるトレードビジターの購買意欲も促すものだ。日本にも同様にスタートアップの支援と、とりわけ資金の掛かるプロトタイプの製作をサポートする政府や民間の活動がいまよりもっと活発化して欲しいと思う。さもなければ、ヨーロッパをはじめとする世界各国のイノベーションの「勢い」に日本が追いつけなくなる日が、そう遠くない将来にやってくる気がしてならないからだ。