NTTドコモはスマートフォンなどモバイル端末がSIMなしでも使えるようになる「ポータブルSIM」を発表、Mobile Asia Expoの会場でその実機を世界で初めて披露した。製品の開発を担当したNTTドコモの理事 移動機開発部長の照沼和明氏、移動機器開発部 要素技術開発担当部長の村田充氏に「ポータブルSIM」誕生の背景をインタビューした。■「ポータブルSIM」、どこが便利なのか はじめに「ポータブルSIM」を使って“できること”を整理しておこう。本体にはSIMカードのほか、NFCとBluetooth機能を搭載する。SIMの入っていないスマートフォンに「ポータブルSIM」をかざしてNFCでワンタッチペアリングをすると、SIMに書き込まれた電話番号をユーザーIDとして読み込んで、端末を使って電話やデータ通信が利用できるようになる。スマートフォンの側はSIMカードスロット経由だけでなく、Bluetooth経由でもID情報が読み込めるよう、試作端末はモデムのソフトウェアを一部変更している。 さらに1台のポータブルSIMを、対応する別のスマートフォンにかざすとペアリング対象が素速く切り替わる。通常はSIMカードを抜き差しする手間がかかるが、ワンタッチでこれを実現しているところが特徴だ。 イベントでは1台のスマートフォンを2つの電話番号で共有するケースを想定して、2台のポータブルSIMの試作機で交互にペアリングを切り替えるデモを体験する機会を得た。ユーザーをスイッチした際に、アプリでホーム画面を切り替える使い方も同じデモで紹介している。要素技術開発を担当した村田氏は「カメラ機能をロックしたり、ペアレンタルロックをかけてWebアクセスを制限する等の使い方もできます」と語る。例えば家族で1台のタブレットをシェアしたい時には便利な機能だ。 他にもSIMカードに内蔵したセキュアエレメントに、インターネットサービスのユーザーIDやパスワードを保存しておくことができる。例えば利用する端末を切り替えても、ドコモIDやGoogleアカウントなどのIDとパスワードがSIMの側に紐付けられて、ペアリングが行われた際に自動で引き継がれるので、ユーザーは都度それを入力する手間から解放される。システム側で情報を管理することで、よりセキュアなIDとパスワードの利用も可能になる。■「認証機能に特化したスマートデバイス」という観点から面白い使い方が見えてきた ポータブルSIMの企画が起ち上がった背景について、照沼氏はこう語る。「昨今はGoogle Glassをはじめモバイル端末のデータを出力・表示することに特化したデバイスや、センサー系のリストバンドなど入力インターフェースに特化したウェアラブルデバイスなどが注目を集めつつあります。ドコモは今回、入出力という観点から少し離れてみて、SIMをベースとした認証機能をモバイル端末本体から分離させることで、他のスマートデバイスと少し違うユースケースが提案できないかを考えてみました。そこで誕生したのがこのポータブルSIMです」 昨今のハイスペックなスマートフォンから、様々な機能をそぎ落としていきながら、必要な機能を追求してきた一つの答えが、「SIMカードによる認証機能を残す」というアプローチだった。辿り着いた先には、面白いユースケースが提案できそうな路が見えていたのだという。 「セキュアに通信するためにBluetoothとNFCは必要。でも、最小限のセットで周辺デバイスを構成したときに、じゃあ何ができるかを考えてみました。するとそこには、シンプルながらユーザーに新しい利便性を提供できそうな可能性が広がっていました。今回のイベントで基本的な使い方としてデモでご説明した、SIMカードが入っていないスマートフォンやタブレットを使い分けたり共有するという方法だけでなく、将来的にはカーエンターテインメント機器にワンタッチペアリングして、車のネットワークサービスをより便利に楽しむための入口を提供していくという方向性も有り得るでしょう。今回は非常に短い期間で試作したデモ機を展示していますが、今後商品化を検討していくのなら、よりコンパクトにして、デザインも磨き上げる必要があると考えています」(照沼氏) 試作機の筐体にはSIMカードスロットがそのまま入っていて、SIMカードが装填されているという。SIMカードの物理的サイズを小さくしていくというアプローチもひとつあるだろうが、「将来的にはSIMカードベンダーの皆様とも協議しながら、同様の機能をソフトウェアに落とし込んで提供ができるかどうかも検討したい」と村田氏は説明する。もしそうなれば、リストバンドやペンダントのようにアクセサリー感覚で身につけられるポータブルSIMが考えられるかもしれないし、ユーザーとしてもポータブルSIMの使い方がより明確に思い描けるようになるはずだ。今回の試作機のバッテリー持続時間は約3.5日だが、持続時間をさらに伸ばしていくことも、村田氏によれば検討項目に含まれているという。
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