彼女は一生を主役として生きる運命のようだ。今季限りで現役を引退する元女子バレー韓国代表のキム・ヨンギョン(37、興国生命ピンクスパイダーズ)のことだ。
4月6日、仁川三山(インチョン・サムサン)ワールド体育館では2024-2025シーズンの韓国プロバレーVリーグ女子部チャンピオン決定戦の第5戦が行われ興国生命ピンクスパイダーズが正官庄レッドスパークスをセットカウント3-2で下した。
これで興国生命はチャンピオン決定戦通算3勝2敗とし、優勝が決定。2018-2019シーズン以来6年ぶり、通算4度目の統合優勝(レギュラーラウンド、チャンピオン決定戦ともに優勝)を達成した。
引退選手と思えない大活躍
キム・ヨンギョンはチャンピオン決定戦5試合で計133得点を叩き出す圧倒的な実力を見せつけた。
第3戦で今シーズン自身最多の29得点を記録すると、第4戦では32得点、第5戦では34得点とその数字をさらに伸ばした。最も重要な試合で自身の役割を果たす、まさに誰もが認める“エース”だった。

アタックだけでなく、第5戦の第5セットでは守備も光った。セット終盤、薄氷を踏むような接戦のなかで、キム・ヨンギョンは体を投げうって執念で相手のアタックを防いだ。華麗なディグのあとには、チームメイトによる反撃が続いた。彼女は攻守にわたり圧倒的な活躍を見せ、チームに勝利と優勝を呼び込んだ。
劇的な優勝だった。興国生命は第1~2戦を制した後、第3~4戦でまさかの連敗。第3戦で決着をつける覚悟で龍仁(ヨンイン)の練習場から荷物もまとめていたが、結局仁川に再び戻ることになった。
2年前、チャンピオン決定戦で韓国道路公社ハイパスに“大逆転優勝”を許し、準優勝に終わった悪夢が蘇りかねない流れだった。
第5戦の展開も、興国生命にとって好ましいものではなかった。第1~2セットを連取したが第3~4セットを正官庄に奪われ、苦しい状況に追い込まれた。
キム・ヨンギョンは第1~2セットだけで20得点を挙げていたが、興国生命の攻撃を一手に担ったことで体力的な負担が大きかった。それでも、正官庄の猛攻を乗り越えて優勝を勝ち取った。

「これが、私が想像していた引退」
「ドラマや映画のシナリオでも、こんな風には書けないと思う」とキム・ヨンギョンは試合後に語った。それだけ、優勝までの道のりは険しかった。
かつて日本のJTマーヴェラスをはじめトルコ、中国など海外各国で活躍したキム・ヨンギョンは、2020-2021シーズンに興国生命に11年ぶり復帰を果たしたが、同年シーズンは準優勝に終わった。
その後、中国でのプレーを経て2022-2023シーズンより再び国内復帰。ただ、同年もレギュラーラウンドでは1位を獲得したが、チャンピオン決定戦の頂点には届かず。昨季もその壁を乗り越えることはできなかった。

だが、今季は優勝への思いが切実だった。キム・ヨンギョンは2024-2025シーズン限りの現役引退を宣言していたからだ。「優勝できなくても引退する」という覚悟だったとはいえ、“優勝”は絶対に逃したくないタイトルだった。
そのようにして、キム・ヨンギョンは自身の“ラストダンス”を自らの活躍で最も華やかに飾り、主役のまま舞台を降りた。彼女は、決して脇役になれない運命だったのだ。
キム・ヨンギョンは最後、「これが、私が想像していた引退だ。今日のことは、きっと深く記憶に残るだろう。韓国に戻ってきてチャンピオン決定戦に4回出場したが、やっと1回だけ優勝できた。星を一つ付けることがこんなにも大変なのだと、改めて思いました」と、優勝の喜びをかみしめていた。

なお、キム・ヨンギョンは個人タイトルとしてチャンピオン決定戦のMVPを受賞した。“女帝”と呼ばれた韓国女子バレー界の絶対的エースが、“主役”のまま21年間の現役生活に別れを告げた。
◇キム・ヨンギョン プロフィール
1988年2月26日生まれ。韓国・京畿道出身。身長192cm。興国生命ピンクスパイダーズ所属。小学4年生からバレーを始め、2005年に新人ドラフト1位で韓国Vリーグの興国生命ピンクスパイダーズに加入。その後、日本のJTマーヴェラスをはじめトルコや中国など海外を転々とし、2020-2021シーズンに興国生命に11年ぶり復帰。その後、中国でのプレーを経て2022年6月に興国生命に再復帰した。韓国代表では2012年ロンドン五輪ベスト4、2021年東京五輪ベスト4に貢献。キャプテン兼エースとして長年チームをけん引し、2021年8月12日に代表引退を発表。2025年2月13日、2024-2025シーズン限りの現役引退を宣言した。