■新しいiPhoneが対応した「HDR」とはどのような映像技術なのか
まずは改めて「HDR」とはどんな技術なのかを確認しておこう。HDRとは、デジタル映像が持てる輝度や色合いの情報の幅(ダイナミックレンジ)を拡大してディスプレイに表示するための技術だ。HDRの実力を体験するためには、HDRに対応するディスプレイのほか再生機器、そして映像コンテンツが必要。それぞれ対応する環境が揃えば、より人間の目で見た風景に近いリアルな映像体験が味わえるようになる。
最初にエレクトロニクスの分野でHDR対応が話題になっているのは4Kテレビ。昨年末以降に大手テレビメーカーが発売した上位クラスの4Kテレビあたりから多くがHDR対応を実現している。4K/HDRの映画コンテンツなどを収録したUltra HD Blu-rayディスクと、これを再生できるプレーヤー機器も続々と発売されている。
スマートフォンやタブレットにHDR対応の機種が増え始めたのは今年の春・夏ごろからである。今年の2月にバルセロナで開催されたMWC2017ではLGエレクトロニクスにソニー、サムスンといったトップブランドがHDR対応のモバイル端末を発表して、今ではiPhoneよりも先にユーザーの手に届いている。スマホやタブレットで楽しめるHDRコンテンツもAmazonプライム・ビデオやNetflixなどのサービスプロバイダーからインターネット経由で配信されているが、それぞれに対応するデバイスは少しずつ異なっているようだ。9月にドイツで開催されたIFAでもHDR対応の新しいスマホが登場。ソニーの「Xperia XZ1」やLGエレクトロニクスの「LG V30」などが仲間に加わった。
■HDR動画はiTunes Store/Netflixで楽しめる
その流れを受けて、ついにiPhoneもHDR対応を果たした。実はアップルのモバイル端末としては既に2017年モデルの12.9インチ、10.5インチのiPad ProがHDR対応を実現しているが、特筆すべきはHDRの中にも2つ異なる種類として存在している「HDR10」「ドルビービジョン」という両方の技術にiPhone 8シリーズが対応してきたということだ。それぞれの技術は開発元と画づくりなどが異なっているが、初めてHDR映像を体験する方にとってはそこまで深い知識を身に着けて望む必要はないだろう。大事なのはHDR10とドルビービジョンの、どちらの方式でつくられたHDR対応のコンテンツも、新しいiPhone 8シリーズであれば幅広く楽しめるということだ。なお11月に発売されるiPhone XもHDR対応のiPhoneだ。
本稿を執筆している9月後半時点では、iPhone 8シリーズで視聴できるHDRコンテンツにはiTunes Storeからレンタル/ダウンロード購入できる映画か、またはNetflixの最新バージョンのアプリをインストールして、4K/HDRコンテンツが見放題になる「プレミアムプラン」に含まれる映画や海外ドラマ、アニメ作品などがある。
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iTunes Storeには現在20世紀フォックス制作の『ローガン』やワーナー・ブラザース制作の『キングコング:髑髏島の巨神』などのHDR作品が並んでいる。まだ全体のタイトル数に対してHDR作品が少ないので見つけにくいところもあるが、Siriで「4K映画が見たい」、または「HDR映画がみたい」といった具合に“4K”や“HDR”などのキーワードを挟みこんだコマンドで検索すると該当のタイトルが引っかかってくる。Netflixのプランに加入していれば、Netflixの作品もリストに並んできた。

『キングコング:髑髏島の巨神』は再生開始から48時間視聴できるレンタルなら500円。購入すると2,500円になる。今回はレンタルして、同じシーンをHDR対応のiPhone 8 Plusと非対応のiPhone 7を用意して交互に見比べてみたが、ディスプレイが表現できるピークの明るさがあきらかにiPhone 8 Plusが段違いに勝っている。朝焼けに染まる空のオレンジ色のグラデーションがピークの明るさに引っ張られて飽和することなく、きめ細かくディスプレイの上に再現されている。真っ暗闇の夜のシーンでも黒色が完全につぶれてしまうことなく、暗部に写っている被写体のかたちや質感までもが正確に捉えられるようになった。
iPhone 7の映像もキレイだし悪くないのだが、iPhone 8 PlusのHDR映像を目の当たりにしてしまうと、リアリティや空気の透明感が段違いに高いので、もう後戻りできなくなってしまう。人気のiPhoneがHDRに対応したことで、これからは少なくともプレミアムクラスのスマホはHDR対応が当たり前になっていくような気がする。


■なめらかな4K/60p動画が撮れるようになった
iPhone 8シリーズから、メインのiSightカメラで4K/60p動画が撮影できるようになった。1秒あたりに撮れる動画フレームが増えたことで、動きのある被写体が滑らかな映像で記録できるようになる。
当然ながら動画フレーム数が増えると記録されるデータの量も大きくなるものだが、iPhone 8シリーズでは動画ファイルを圧縮効率の高いH.265/HEVCフォーマットで記録できるようになった(従来はH.264/MPEG-4 AVC)ので、iPhone内のストレージ領域を有効に使える。とはいえ、高精細な4K動画は長時間撮影すれば1本あたりのファイルサイズが大きくなるので、大事なデータは常時バックアップしておくことをおすすめしたい。
以下にiPhone 8 Plusで撮影した4K/60pと4K/30pの動画ファイルを掲載するので、滑らかさを見比べてみてほしい。
【iPhone 8 Plusで撮影した4K/60p動画】
【iPhone 8 Plusで撮影した4K/30p動画】
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