『魔法の天使 クリィミーマミ』の魅力について、ぴえろの創業者・布川ゆうじ氏に訊くインタビュー。後編は、現在まで続く人気の理由、そしてぴえろにとってのクリィミーマミについて、お話をていただいた。[取材・構成: 藤津亮太]■ 時代を超える魅力の理由――時代を超えて愛されている『マミ』の魅力はどこにあると思いますか?―布川ゆうじ氏(以下布川) 30周年を迎えて、なお好きだといってくださる方がいることには本当に感動します。しかも最近の『マミ』の動きは、こちらが特に仕掛けたわけではなく、ファンの方が呼び戻してくれたものなので。愛されている理由はいろいろな要因があると思います。先ほどお話ししたストーリーの強さであったり、高田ちゃんのキャラクターの魅力であったり。変身して別人になる、それが魅力的なアイドルである、という設定も女性にとっては普遍的な魅力を持ったアイデアなのだなと思います。さらに優とマミを演じてくれた太田貴子ちゃんの存在も大きいでしょう。まだ素人っぽさがのこる屈託のなさと、それでも精一杯演じているあの感じ。ああいう声というのは、今の声優さんでもなかなかいないと思います。そんな太田貴子ちゃんを受けとめてくれた、水島裕さんはじめ周囲のベテランの方々とのバランスもよかったと思います。――高田明美さんの描くキャラクターの魅力というのはどこにあるとお考えですか?―布川 とてもモダンなところです。タツノコプロで仕事場が一緒でしたけど、そのころから魅力は変っていませんね。古さを感じませんし、海外でも絶大な人気がある。タツノコプロのカラーといえば吉田竜夫+九里一平 +天野喜孝というラインがあるんですけれど、高田さんのはそれとは違う。また別の世界を持っているんです。それは当時から思っていました。そういえば先日、高田ちゃんから「『マミ』の後番組として、こんなの準備していたのよ」と幻の後番組のキャラクターデザインを見せてもらいましたよ。――そんな動きもあったんですね。―布川 伊藤ちゃんもプロット書いていたようです。ただ後番組は、週刊マーガレットで連載されていた『ペルシャがすき!』を原案にした『魔法の妖精 ペルシャ』に決ったのですが、これはまた『マミ』とは違ったテイストのものを打ちだそうという判断があったのだと思います。ただ『マミ』のスタッフはみなこだわりを持っていたので、パート2みたいなものはやりたくないというのもあったし、私自身も攻めの姿勢の時期で、いろいろな作品を作りたいと思っていたところもあったのでしょう。――『マミ』は魔法少女ものであると同時に、アイドルものでもあるので、音楽も大きな要素を占めています。―布川 ぴえろを設立した時から、音楽と映像の連携にはこだわろうという気持がありました。音楽と絵がシンクロした瞬間というのはとても気持がいいものがありますから。そこでこだわったのがオープニングとエンディング。『うる星やつら』では、タツノコプロ出身でCMなどのアニメーションを制作していた南家こうじさんにお願いしました。その流れで『マミ』も南家さんにお願いしました。こちらは自身で作画をすることはなかったんですが、とても魅力的な絵コンテを描いてくれました。南家さんはCMの仕事をしているので、時代の感覚をとらえるのがうまいんです。その後もさまざまな作品で力になってもらいました。――本編中の歌のシーンも見どころの一つでした。―布川 本編中の音楽シーンは非常に手間がかかるんです。アニメは通常、音の作業は映像が出来上がってからになるんですが、音楽シーンは逆なんです。まず楽曲が先行して、そこからタイミングをはかり、演出をして、作画をすることになる。なかなか絵コンテがあがらなかったりして『マミ』の制作当時に苦労した部分ですね。■ ぴえろという会社にとっての『マミ』――『マミ』はぴえろにとって初めてのオリジナル企画になります。オリジナル企画のおもしろさ、というのはどこだと思いますか。―布川 プロデューサーとしては、監督含めコアになるスタッフを決めていくスタッフィングは仕事の醍醐味の一つですね。アニメというのは、監督が重要な起点ではあるんだけれど、作家一人で作るわけではない。1+1+……という具合にいろんな人を足し算をしていって出来上がるのがアニメなんです。オリジナル企画であればなおさら、どういう人とどういう人をスタッフィングしていくのかが大事になる。どういう人を組合わせるかで、作品が様変わりしますからね。『マミ』はそれがうまくいったと思います。高田ちゃんと伊藤ちゃん小林監督ではその後『きまぐれオレンジ★ロード』を作っていますし、別の会社だけれど、高田・伊藤が押井(守)ちゃんと組んで『機動警察パトレイバー』を作ったりもしている。『マミ』のスタッフィングはそういうキャリアのスタートになったのかなと思います。――オリジナル企画は自由度が高いところが、おもしろくもたいへんなところなのではないでしょうか。―布川 そうですね。それでいうとぴえろは、創業当初からストーリー重視、演出重視の作品作りを意識してきました。それは今のぴえろにも受け継がれていますし、そしてそれを成り立たせるには、設定の厚みが必要なんです。文芸、キャラクター、美術……それぞれの部門で設定がちゃんと用意されているかいないかが、作品、特にオリジナル作品の出来栄えを左右するんです。そこについてはぴえろは丁寧にやってきた会社だと思います。昨年から演出・プロデュースを学ぶ「NUNOANI塾」(http://nunoani-project.jp/index.html)をスタートさせたのもそういう思いがあるからで、今まで私が長年アニメ界で経験したことを次世代に継いで行きたい。その為の人材育成を強化していく目的で開塾しました。是非志を持った方々はチャレンジして下さい。――ぴえろという会社にとって『マミ』とはどういう作品といえるでしょうか。―布川 ぴえろは創業してからの数年は下請けの仕事ばかりでした。『うる星やつら』で若干著作権の配分をいただいていたけれど、『マミ』で、初めてぴえろが著作権を手にすることができたんです。そして今なお愛されているわけですから『マミ』はたいへんな親孝行な作品ですよ(笑)。懐古主義になるのはいかがかという気持もありますが、エネルギーのあるスタッフに恵まれて大ヒットになったわけですから、ぴえろが輝いていた時期の作品だったのだなと思います。――5.28に発売になるBlu-ray BOXで改めて『マミ』を視聴するファンの方にメッセージをお願いします。―布川 これを機会に改めて見ていただけるのは無類の喜び以外のなにもないです。今回BD-BOX化にあたり、びっくりするぐらいきれいな映像になっています。是非新鮮な気持でご覧いただければと思います。※吉田竜夫 二人の弟である吉田健二・久里一平とともにタツノコプロを創業。マンガ家を経てアニメーション制作に進出。原作・キャラクターデザイナーとして『科学忍者隊ガッチャマン』など数々の作品を送り出した。※九里一平 タツノコプロ三代目社長。プロデューサーとして多数の作品にかかわるとともに、『宇宙エース』『ゴールドライタン』『とんでも戦士ムテキング』などでキャラクターデザインも手がけている。※天野喜孝 イラストレイター、キャラクターデザイナー。15歳でタツノコプロに入社し『タイムボカン』シリーズなどの多数のキャラクターデザインを担当する。主な作品に『ファイナルファンタジー』シリーズ(キャラクターデザイン、イメージイラスト)などがある。布川ゆうじ株式会社ぴえろファウンダー。1967年、アニメーション会社朋映プロ入社。アニメーターとして、『宇宙少年ソラン』『冒険ガボテン島』等に加わる。その後、虫プロ、スタジオジャックなどを経て、竜の子プロダクションに入社。アニメーターから演出家となる。主な演出作品は「カバトット」「かいけつタマゴン」「いなかっぺ大将」「てんとう虫の歌」「新造人間キャシャーン」「タイムボカン」「ヤッターマン」等々。1977年、スタジオぴえろを発足、『みつばちマーヤの冒険』を手がけ、1979年株式会社スタジオぴえろ設立。『ニルスのふしぎな旅』『うる星やつら』『おそ松くん』『幽☆遊☆白書』『NARUTO-ナルト-』など多数の作品を送り出す。「クリィミーマミ Blu-rayメモリアルボックス」発売日: 2014年5月28日税抜価格: 45,000円