■「パケ詰まり」にどう備えるか。「小セル化」がもっとも効果的? 増加するデータトラフィックがさばけず、電波はあってもパケット通信が滞る状態は「パケ詰まり」と呼ばれ問題視されている。昨今は通信速度に対する注目度も高まっているが、「瞬間風速的に、ネットワークが空いているときに他社を上回るスピードを出してもあまり意味がない。同時に多数の人が利用する状況でも平均的に安定して高速でつながることこそが重要」と、データトラフィックが増加し続ける中、なるべく「パケ詰まり」を発生させず安定したネットワーク環境を構築することが大切だとした。 その解決策として孫社長が提示したのは“基地局の小セル化”。単純計算で、基地局数を10倍にすれば1基地局あたりのユーザーは10分の1になり負担は軽減される。同社では、1基地局にぶら下がる同時接続ユーザーは何人までがいいかを分析しつつ、また以前はプラチナバンドを持っていなかったこともあり、とにかく多くの基地局を作ることを目指していたという。「いずれパケ詰まりが最大の問題になるということは読んでいた」と孫社長は言うが、ともかく5、6年前からこつこつと小セル化には取組み、プラチナバンド取得を契機にその設置を加速させ、数の上では他社を引き離した格好となっている。同社によれば、基地局数あたりのユーザー数は現在、ドコモと比較して4分の1程度だそうだ。 基地局数を増やしたことに加えて、現在SoftBank 4Gサービスで利用しており、TD-LTEとの互換性があるAXGPの基地局を25,000局設置。さらに公衆Wi-Fiの基地局を45万ヵ所設置したことも説明。常に小セル化、データのオフロードを意識して戦略的にやってきたとした。またWi-Fiに関しては、これまでに配布したFONルーターが340万台にのぼり、その内200万台以上がアクティブであることなども初めて公表した。■「ダブルLTE」もサービスイン この日サービスインを発表した「ダブルLTE」もこうした取り組みに加わって、安定したネットワーク環境はさらに強固になるという。「(イー・モバイルの1.7GHzもソフトバンクの2.1GHzも)両方とも生きたネットワークなので、非常に慎重に、徐々に計画的に対応エリアを増やしていく。具体的には、都市部や駅前などのトラフィックが混んでいるところから。そういったところから、2つのLTE網が同時に利用可能になる」「1台のiPhoneで両方のネットワーク、どちらが混雑しているかという情報をリアルタイムに判断しながら、より混んでないほうにつながるという機能も備わっている」。ちなみに、この「ダブルLTE」の恩恵を受けられる端末は、現状iPhone 5、iPad mini、iPad Retina Displayモデルとなっている。「(ソフトバンクモバイルで)もっともユーザーが増えているこの3機種に関して、今回の『ダブルLTE』でイーモバイルのLTE網にオフロードしていく」とのこと。 孫社長がもう一点、ネットワークに関して説明したのが、バックボーンの構築について。「ネットワークを守る意味で、基地局から端末の間を改善するだけでは駄目。パイプが太くて、安定的で強靭なバックボーンが設計できていないと、増加するデータのパケットをさばけない」とし、バックボーン側のネットワークがものすごく重要だとした。■強固なバックボーンも不可欠 この点について同社では、世界に先駆けてフルIPベースのバックボーンを構築。容量も1テラから10テラに大容量化、かつフルメッシュ化して、東京と大阪のシステムを冗長化した。東京が倒れても大阪にトラフィックを流す、大阪が倒れても東京にといったように、大きな災害に備える仕組みを作り上げたとしている。こうした裏側のシステム構築の強靭さの裏付けとして、過去5年間(660日間)、総務省へ報告義務が生じる「重大事故」の発生がないことが付け加えられた。孫社長は、「これは偶然できたのではなく、フルIPで完全に冗長化している。これによってバックボーンの事故も起きにくいし、小セル化されたネットワークではパケづまりが起きにくい。きちんと設計思想を持ち、それを実行してきた結果だと思っている」とし、「(ソフトバンクは)つながりにくいという世の中の定着したイメージ。これは、現に長い期間そうだったからしょうがない。長年解決できていなかった我々に原因がある。だが、歯を食いしばってやってきた結果、内容が変わってきたので、今回報告することにした」と述べた。 音声やパケットの接続率に関して、一過性のものだという指摘もあるが、「徹底して小セル化、バックボーン強化をやってきた。ダブルLTEについて1日でも早くできるように調整してきた。構造的な努力をしている結果なので、それなりにこのトレンドは続けられるのではないかと思っている」と確かな自信を持っているようだ。 ただし、今回同社が示したデータは、孫社長自身も述べているが、あくまで一つの物差しにすぎない。ユーザーのライフスタイルや居住地、さまざまな条件によって、実感としての使いやすさ、つながりやすさは違うはずだ。本当にどんな時も、誰でもシームレスに“つながる”ためには、まだまだ各キャリア改善すべきところは多いだろう。孫社長は、「情報通信を最強のライフラインにするという強烈な使命感を持ってやってきた」と言う。日常でも、災害時でも、いつでもどこにいても通信がつながるようになれば、それは確かに心強い。そうした環境がいち早く実現されることを期待したい。
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