クラウドコンピューティングという言葉に明確な定義はなく、提供者やユーザにとって認識は異なる。マーケティングキーワードやコスト削減の代名詞、として既存技術や製品をリメイクしている企業も多く、誇大な状況をバズワード(中身がない騒ぎ言葉)として表現するユーザも多い。しかしながら、Amazon、Google といったインターネット企業を筆頭に始まったクラウドコンピューティングの波は、Microsoft、IBM、HP、VMware、Cisco Systems といった大手ベンダを同分野のビジネスに参入させており、日夜取り組みが発表されている。
アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)(以下、NIST)では、クラウドコンピューティングにおける標準化を促進するために、ロードマップの作成と要件の洗い出しを行なった、また標準化について討議するための用語集を作成することを目標に、2009 年6 月にクラウドコンピューティングの定義を発表した。NIST はその後も定義を定期的にアップデートしている。2009 年10 月に発表されたNIST 定義(v15)の日本語訳を表1 に記す。また、クラウドコンピューティングに関して多くの標準化団体が立ち上がっており、各クラウドの相互接続性や、セキュリティ、運用といった個別の議論が進められている(表2)。
本稿においては、自社内または自社が保有するデータセンター内に仮想化製品や運用の自動化ツールを用いて動的な構成変更を実現するシステム基盤のことをプライベートクラウドと呼ぶ。システム構築や運用はシステムの利用を企画した企業が担当する。パブリッククラウドに比べてシステムを構成する個々のコンポーネントの詳細、状況を把握しやすく、各企業において必要なセキュリティポリシーやコンプライアンスへ丁寧に対応することが可能である。しかし、多岐にわたるアプリケーション、サービスを実現するためにさまざまな種類のコンピューティングリソースを自社で運用・管理するため、システム基盤の構成や運用プロセスが複雑になる傾向が強い。プライベートクラウドを実現するためのコンポーネントの多くを提供する事業者にはIBM、HP、VMware、Cisco Systems などがある。