本国では、同作の効果によってディズニープラスのアプリ週間使用時間が2倍以上に。公開前の8月第1週が0.8億分だったのに比べ、8月第4週は1.85億分まで到達したと報じられている。
評判は国内だけに留まらない。「説得力のある感情的な物語。堅実なストーリーが興味を刺激し続ける」(Forbes)、「『イカゲーム』に続くアジアで生まれたヒット作」(Variety)、「『ムービング』がディズニー+とHuluに『イカゲーム』のような瞬間をプレゼントしている」(The Hollywood Reporter)、「『ムービング』はすべてが驚くほどパワフル。K-シリーズがスーパーヒーローのジャンルも十分にやれるという答えを提示している」(IGN)など、海外大手エンタメメディアも絶賛の嵐だ。
9月7日(水)に15話まで配信され、残るはあと5話のみ。今回は、これまでに判明したことや漫画版との違いについて紹介したいと思う。(以下、ネタバレあり)
■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X(Twitter):@ymndayo
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X(Twitter):@ymndayo
南北の確執が生んだ能力者たちの危機
一挙配信された最初の7話では、飛行能力を持つ高校生キム・ボンソク(イ・ジョンハ)と再生能力を持つ転校生チャン・ヒス(コ・ユンジョン)が仲良くなるも、高速&怪力の持ち主である学級委員長イ・ガンフン(キム・ドフン)の存在により、三角関係の予兆が訪れる青春モノが軸に。
以降は90年代へと遡り、同じく7話かけて、ボンソクの父キム・ドゥシク(チョ・インソン)と母イ・ミヒョン(ハン・ヒョジュ)、ヒスの父チャン・ジュウォン(リュ・スンリョン)と母ファン・ジヒ(クァク・ソニョン)、ガンフンの父イ・ジェマン(キム・ソンギュン)と母シン・ユンヨン(パク・ボギョン)の馴れ初めや夫婦生活が描かれた。
現代においては、片親環境であったり親子仲が微妙な時もあったりもするが、子どもたちが皆両親に深く愛情を注がれてきたことが分かる、愛に満ち溢れた内容となっていた。
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そして15話。久々に現代パートへと戻るが、能力者親子たちに二度目の危機が訪れる。軽くおさらいとなるが、一度目の危機は、アメリカからの刺客フランク(リュ・スンボム)の存在。アメリカの承認を受けて極秘任務を行なっていた過去を持つ能力者たちは、“生きた証拠”であることから、立て続けに暗殺されていた。アメリカの中央情報局CIAは、フランクを材料に世界的なビジネス展開を目論んで子どもたちをも狙っていたが、米韓の話し合い及びフランクの死亡によって事態は終結した(はず)。
今回の二度目の危機は、より根深い問題が横たわる。90年代、南北首脳会談が開催される半月前に北朝鮮の国家主席金日成が心筋梗塞で死亡。その時期、ドゥシクが北朝鮮に渡って単独行動後に姿を消したことで、彼が主席を勝手に暗殺したか否かが曖昧となり、南北の情報院は混乱。ドゥシクは最終的に捕獲されるが、結局彼がその時期にどんな行動をしていたか、現段階では謎に包まれている。
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ドラマ序盤(現代パート)、国家安全企画部ミン・ヨンジュン(ムン・ソングン)は「南北首脳会議 8月末が有力」という見出しの新聞を読んでいた。その後、北朝鮮が敵対行為を中断していた情報も入っていたが、ガンフンが体育館で能力を発揮した動画を見たことで、北朝鮮は特殊部隊を韓国へ派遣。能力者を捕らえ、彼らの育成に関わった者を皆殺しする任務を遂行しようとしている。単なる国力向上のためだけではなく、90年代に何があったのかという情報収集も目的ではないだろうか。“南北が歩み寄りそうな時期”に実施する点も、何やら意味深である。
漫画版との大きな違いはオリジナルキャラクター
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『ムービング』の原作は、韓国の有名作家Kang Fullの同名ウェブトゥーン作品。Fullの作品の幾つかは過去にも映像化されているが、彼自身が脚本に参加したのは今回が初だ。その件について、韓国メディアMTNのインタビューでこのように語っている。「私はもともと映画に干渉しないことで有名で、映画は監督のものだと思い、脚本も読みませんでした。ところが、映画で観ると、原作が思ったよりもボリュームが大きく、短縮や変更する問題が発生。“Kang Fullの映画の最大の敵は原作”という言葉に腹が立ったりもしました。そうすると、自分の手で最後まで書いたときは、何か違うものでなければならないし、もっと面白くなければならないという強迫観念が生まれました」
元々16話だったところを20話に変更し、原作を基盤に練り上げていった脚本は、漫画とどのような違いがあるのか。ネタバレを避けるため、全45話中27話まで読んだところ、構成は大体同じで、子どもたちの物語で始まってから、親たちの過去が紹介されていくという流れになっている。「子どもたちが通う学校が、実は国家情報院が糸を引く能力者育成学校だった」「親たちは90年代に工作員だった」という点も同じ。しかし、アメリカからの刺客はおらず、ドゥシクの単独行動に北朝鮮が絡んでいるという描写もない。スマホの縦スクロールというウェブトゥーンの特性のためか、能力者親子たちの物語により特化しており、ドラマ版と比べると淡々とスピーディーに展開していく。
最も大きな違いとして挙げられるのは、ドラマ版にはオリジナルキャラクターたちが登場するということだ。その筆頭は、フランクと“イナズママン”ことチョン・ゲド(チャ・テヒョン)。米韓ハーフとして誕生したフランクは、幼少期にCIAに連れていかれ、オハイオ州のトウモロコシ畑で訓練されてきたルーツの持ち主だ。韓国語をきちんと話せるわけでもなく、能力も最強というわけでもない彼は、任務遂行中に敵に「半端モノ」と見下され、最終的にジュウォンによって殺されてしまう。母親に関しておぼろげな記憶しか持たない彼が、能力者たちの親子愛に触れて何を想ったのか。演じたのは、『生き残るための3つの取引』などのリュ・スンボム。アクションシーンも圧巻だったが、何よりも、ふと見せる寂しそうな表情が印象的だった。
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ゲドは、電気能力者チョン・ヨンソク(チェ・ドクムン)の息子。イナズママンとしてテレビやキッズショーなどで活躍するが、その能力による悪影響でリストラに遭い、現在はバス運転手に。バス通学をしているボンソクと毎日挨拶を交わしており、彼のことを気にかけている。友人も恋人も趣味もなく、ただ一人自分を必要としてくれた父も死んだことで卑屈になっていたが、ボンソクのとある一言により、彼のささくれ立っていた心が癒される。ゲドを演じるのは、Fullが直談判してキャスティングしたというチャ・テヒョン(『猟奇的な彼女』など)。滑稽なコスチューム姿で歌って踊る姿は言うまでもなく、挫折や失敗や嫉妬など、人間くさいところが詰まっているゲド役としてまさに適任。“ただ毎日挨拶するだけ”のボンソクとの関係でここまで涙を誘うなんて、もう、流石としか言いようがない。
他に、フランクに暗殺された能力者3名(チョン・ヨンソク=ポンピョン、ホン・ソンファ=ナジュ、チョン・サンジン=チンチョン)、ガンフンと犬猿の仲になる同級生パン・ギス(シン・ジェフィ)、ガンフンの動画を拡散するインフルエンサー女子、ミヒョンが利用している卸肉業者の親子、ミヒョンの上司でヨンジュンの部下であるヨ・ウンギュ(キム・シンロク)、ジュウォンのヤクザ時代の手下、ジェマンとジュウォンが救った少年など、オリジナルキャラクターは案外多い。そして、彼らの登場によって『ムービング』の世界観はより広がっている。
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数日前、Fullは「想像力を限界まで引き上げ、原作とは違う結末を描いた」と明かした。オリジナルキャラクターのゲドが機転を効かせてバスを暴走させたことで、ドラマ版はどのように展開していくのか。残りのエピソードも待ちきれない。
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