新サービス「タク配」への思い
昨年4月。緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出自粛が叫ばれると、例年は観光客でにぎわう春の京都は、閑散とした街並みに一変した。電車、バス、タクシーなどの観光に欠かせない“足”の利用者も激減。各社とも苦境に立たされるなかで、MKタクシーはコロナ禍に対応するための「タク配」という新サービスを始めた。その駄洒落の利いたネーミングがわかりやすく示すように、タクシーで宅配をするサービスで、飲食店と提携して食事をステイホーム下の自宅に届けるように設計されている。
このタク配を考え出したのが、MK株式会社のなかに昨年4月に新設された商品開発課課長の中村正明さん(49)である。中村さんは企画力を見込まれて同社に転職したばかりだったが、初回の緊急事態宣言発令時に「自社の利益にこだわるべき状況ではない」「いつもお世話になっている飲食店を助けるべきだ」と会社の向かうべき方向の指示のもと、わずかな期間で支払いなどの運用フローを作り上げ、サービス開始にこぎつけた。
食事の宅配サービスとして広く名が知られているのはウーバーイーツかもしれないが、タク配のほうが車で配達する分、出前可能なエリアがご注文の店舗から京都市内エリア対応と広く、商品への振動なども軽減できる。そしてなによりも、タク配はお店からは利用料を一切取らず、ユーザーからわずか110円をもらうだけというリーズナブル(というか会社的には明らかに赤字サービス)な料金体系になっており、極めて公益性の高いサービスになっている(※WEB注文の機能(カード決済)ご利用の場合、代金の8%が必要となる)。

タク配の運用を構築した中村さんが、いまあたためている企画がある。「Vライバー×MKタクシー×お寺」という前代未聞のコラボレーションで届ける「絵師御朱印巡り旅 in 京都」である。Vライバーとは、コンピューターグラフィックスで創作されたキャラに、モーションや音声を吹き込むことで顔出しなしでライブ配信する人たちを指していう。協力しているのは、フォロワー11万人を超えるVライバー絵守未來をはじめ、16人のVライバーをかかえるデジタルエンタメカンパニー「LiverCity」。お寺や神社など日本の伝統文化を現代人に馴染み深いものにしていく学びの場「神社仏閣オンライン」。そしてMK株式会社である。

タイトルが示すように、Vライバーのファンたちが京都に集まり、MKタクシーの案内のもとでお寺を訪ね、御朱印を授けてもらったうえでお寺体験を味わう。しかも、Vライバーの絵師によるスペシャルなコンテンツが準備されているという。ツアーの日程や内容は発表前であるため、詳しいことは情報の公開を楽しみにお待ちいただきたい。
MKタクシー様 @MKofficial_PR と絵守未來がコラボ!
— 絵守未來MKタクシーコラボツアー (@miku_emori) December 7, 2020
日帰りツアー
「絵師御朱印巡り旅 in 京都」
・・を2021年2月末に催行します!
新作描き下ろし絵も製作!
参加絵師様(敬称略)
・みこ
・望月しいな
・胡麻乃りお
・にもし
・すいみゃ
詳細は正式告知をマテ!#MKトラベル pic.twitter.com/ahBuKDxsjI
中村さんは、「社内には企画が斬新すぎて成功するかどうか半信半疑の人もいる」という。しかし、「ドライバーのなかにはぜひ運転手をつとめたいと手を挙げる人が何人もいます。今までお寺に足を運ばなかったVライバーのファンが、京都を訪れ、お寺に目を向ける大きなきっかけになりそうです」とツアーの成功に対して、すでに大きな手ごたえを感じている。
新しいお寺参りの形をVライバーとともに
それでもまだ疑問は残るだろう。
コロナ禍のなかでは、大人数を動員するツアーは敢行しにくい。会社の収益だけを考えれば、企画広報に割く労力に対して、見返りは明らかに乏しい。またお寺とVライバー明らかに異質感があるが、なぜこのようなコラボが実現したのか。どんなメリットがあるのだろうか。
中村さんは「ウィズコロナの時代にいままでの観光は通用しないと感じています。京都に来てもらえる仕組みをゼロから考えなければいけない状況にあります。いま必要なのは、自社の利益を追求することではなく、人の流れを作ることです。京都に来て移動にMKタクシー使ってもらったら嬉しいですけど、そもそも人が来ないとなにも始まりません」と指摘する。だから、「ファンがたくさんついているVライバーとのコラボをやりたい」という思いに至ったという。
この中村さんの熱意に、パートナーたちも共感の言葉を重ねる。LiverCity CEOの山本浩成さんは、「グッズを販売してVライバーを育成するような仕組みはさんざんやってきました。お寺でしか味わえない時間を届けることで、ファンにVライバーをもっと好きになってもらえるはず」だという。さらには、「ゆくゆくはお寺オリジナルのVライバーが誕生したりとか、さまざまな可能性が考えられますね」と「Vライバー×お寺」の先に見える未来を語る。
そして、神社仏閣オンライン共同代表で浄土宗僧侶の河村英昌さんも、葬式仏教の場というイメージが強いあまりにお寺が縁遠いものになっている現状を踏まえたうえで、「エンタメとのコラボは若い世代が来てくれる流れ作るうえで極めて魅力的な試み」「参加者にお寺らしい楽しみを提供することで、お坊さんの役割を果たしたい」と考える。
企画者たちの真剣な思いを聞くと、「Vライバー×お寺×MKタクシー」というコラボは奇抜さをウリにした薄っぺらい企画ではないとわかる。そこにあるのは、新しいエンタメ、新しい京都観光、新しいお寺まいりへのチャレンジである。Vライバーファンの皆さんにはぜひツアーに参加してその第一歩に立ち会ってほしいし、Vライバーに関心を向けてこなかった人たちも新しい文化の誕生を注意深く見ていてほしいと思う。
タクシー実車中に見えるバーチャル背景を配布するなど、話題に事欠かないMKタクシー。これからも目が離せない。
タクシードライバーの席から打ち合わせに参加されたい方のためにそれっぽい背景をご用意いたしました。ドライバー気分を味わいたい方はご自由にご利用ください。#zoom背景 #バーチャル背景 pic.twitter.com/euBW4lL0vB
— MKタクシー (@MKofficial_PR) April 17, 2020

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja