Zoomは7月、在宅勤務を支援する新たなコンセプト「Zoom for Home」と、そのコンセプトにあわせた在宅勤務向け端末「DTEN ME」を発表。また、Zoom Japanが8月27日にオンライン開催した記者説明会では、「DTEN ME」の共同開発元であるDTEN社のAPACセールスエンジニア・シニアマネージャー、黒滝氏によるデモが実施された。

単体でZoomに接続できる27インチ端末
「DTEN ME」は、単体でZoomに接続できる27インチのマルチタッチディスプレイ。「DTEN OS」とよばれる独自OSを搭載し、イーサネットおよびWi-Fi接続に対応。Zoomはプリインストールされているので、ITに詳しくないユーザーでもすぐに使えるのが利点だという。

起動するとアイコンの並んだ画面が表示され、新しいZoom会議を開始したり、IDを入力して招待された会議に参加したりできる。また、Zoomに接続していないときに、ホワイトボード機能だけを使えるモードも備えている。

カメラは3台搭載し、160°の画角をカバー。会議室に数人が集まってZoomに接続する場合でも全員を映すことができるという。また、8つのマイクは約4.8mの範囲の集音が可能で、エコー除去や自動ノイズ低減、音量を一定に保つAGCなどによって音声を最適化する。
法人向け・個人向けを問わずどのタイプのアカウントでも利用でき、カレンダーや連絡先リストの同期も可能。HDMIケーブルでPCと接続することで、セカンドディスプレイとして使うこともできる。また、企業で一括して導入する場合には、IT部門がリモートでアップデートなどの管理を行うことが可能となっている。価格は税別9万円で10月より出荷を開始。企業向けの長期リースは実施予定だが、個人向けのサブスクリプションなどは考えていないとのことだ。
「Zoom専用」を考えると割高感は否めない
黒滝氏はDTEN MEを「誰もがZoomを使いこなせる製品」だと話す。確かにZoom会議を快適に行うという点では優れた端末に思えるが、あくまでも「Zoom専用」で通常のPCとしては使えないことを考えると、税別9万円の価格は高いハードルになりそうだ。
DTEN MEと同じ27インチサイズの一般的な外付けディスプレイであれば、3分の1以下の価格で買える製品も少なくない。WebカメラやマイクはノートPCに搭載されたもので構わないと考えるユーザーにとっては、かなり割高感があるだろう。また、ホワイトボード機能を使う際に便利なタッチディスプレイに関しても、タブレット端末やWindowsの2 in1 PCがあれば事足りる。

Zoom社としては個人での導入も想定しているようだが、自腹でテレワーク用の機材を買うのであれば、手頃な価格の外付けディスプレイを選ぶか、もう少し予算を足して使い勝手のよいノートPCを購入するほうが現実的な選択ではないだろうか。テレワークに意欲的な企業が一括導入するケースも考えられるが、「ノートPCだけでも何とかなっている」現状がある中で、新たにZoom専用端末に予算を割ける企業は限られそうだ。
個人利用より社内での少人数利用が現実的か
DTEN MEの価格と性能を考えると、オフィスに出社している社員が会議室に集まり、テレワーク中の社員とWeb会議を行うような状況のほうがニーズがあるように感じる。なお、Zoomの会議室向けソリューション「Zoom Rooms」向けの製品はすでに複数販売されているが、ディスプレイ一体形の端末は、DTEN社が販売する55インチの「DTEN ON」や、neatframe社が販売する65インチの「Zoom-in-one.」など、会議室への常設を前提とした大型の製品となる。
部署単位などの比較的小規模なミーティングでは、会社に設置されている場合でもおそらく数が限られる常設型の機材より、空いている会議室に持ち込んで使える携帯性に優れた端末のほうが都合がよいケースも多いだろう。電源さえ確保すればどこでも使うことができ、ノートPCに比べて広い画角や優れたマイク性能を備えたDTEN MEは、このような状況では真価を発揮しそうだ。
会社でDTEN MEを利用して使い勝手のよさに魅力を感じれば、自身のテレワーク用に個人購入したいと考えるユーザーも出てくるかもしれない。しかし、まずは社内利用を想定した企業での導入が中心となるのではないだろうか。