「宗教」のセクションからは、一般にも出版・販売されている米国人のロバート・クランブ(Robert Crumb)のカートゥーン作品「ザ・ブック・オブ・ジェネシス(The Book of Genesis)」の原画。彼は新約聖書には明記されていないが暗黙に「語られている」とみなされる、物語の「醜い部分」をカートゥーンに描き、聖書の再解釈を行った。エデンでアダムとイヴが性交している図が印象的な作品だ。埋没しているイメージを形にすることで、フォーマルな「イメージ」が我々の知を形成しながらも、同時に制限していることを再認識させてくれる。
このセクションの最後には、ブルース・ニューマン(Bruce Nauman)による、映像作品「Raw Material with Continuous Shift-MMM 1991」が効果的に配置されていた。自身が逆さ吊りでぐるぐると回転するこの映像作品はまるで、ここまで鑑賞してきた作品の情報を処理しようと試みる観客の混乱ぶりを皮肉をこめて指摘しているようだ。「あらゆる知」についての情報など、到底処理しきれるはずがないのだ。
展示の最後を飾るのは、先月亡くなった、ウォルター・デ・マリア(Walter De Maria)の「アポロズ・エクスタシー(Apollo's Ecstasy)」。通常のビエンナーレで良く見られるようなミニマルな作品は、ここで初めて登場する。禁欲的な「アポロ」と相反する「エクスタシー」を床に均一に並べられた真鍮のポールで表現し、パーフェクションを追求した作品は、誰かがつまずけば壊れてしまうという脆さを抱えている。この危うさはすべての知識を集めようとしたパーフェクトな美術館が、「神」の領域にあり、ユートピアに過ぎないということを示唆しているようだ。この会場で、自然光のもとで見れる唯一の作品だ。