劇場版「とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-」 錦織博 監督インタビュー 後編[インタビュー取材・構成:数土直志]劇場版『とある魔術の禁書目録-エンデュミオンの奇蹟-』 http://www.project-index.net/■ ”偶然”、”奇跡”はあるのか?―― アニメ!アニメ!(以下AA)今回の作品のテーマは何でしょうか。―― 錦織博監督(以下錦織)偶然とか奇跡を否定するのでなく、あがいて手を伸ばすことでひょっとしたら手に入ることもある。何かの力を待つのではなく、そこに対して手を伸ばすアクティブさ、ポジティブさを描きたかったんです。そのあたりは所謂、説教シーンとして上条に言わせている部分でもありますね。アリサが歌うことに対して抱いている不安とか恐れみたいなものとあわせて描ければというのが、最初からあったテーマです。AA奇跡と言ってはいるけれども、偶然を待つのではなく能動的に動くのでしょうか?―― 錦織 普通は二元論になってしまいがちなところだと思うんです。「不思議な力なんて存在しないので一日、一歩ずつ頑張ろう」という考え、一方で、「努力しても運命には逆らえないのだ」という考え方もあります。『インデックス』は、超能力や魔術が当たり前にある世界観です。美琴を含めて個人の能力差があったりします。けれどそれだけですべてが決められてしまうのではなくて、努力だったり、自分から能動的に動くことでなにかが変わっていったり、より大きな力を得られることもあるというのが一番描きたかったところです。AAそのメッセージは当麻の行動にもかなり投影されていますか?―― 錦織 目の前にいる困った人のために、たとえ自分の身が傷ついても一歩踏み出して行動するというのが上条当麻のいいところだと思います。上条の説教は、その行動のひとつと考えています。思いとか、行動をぶつける行為のひとつとして説教シーンがあるという理解ですね(笑)。AAファンの方からあの説教シーンがかっこいいと人気があります。監督から見ても上条はかっこいいヒーローですか?―― 錦織 原作でも、上条当麻というキャラクターは表面的には熱かったり、言動も結構悪かったりする描写が多いんですが、実は内面では恐怖を必死で押し殺していたりします。けれど困っている、特に女の子ですけど、そこに対しては前に出ざるを得ない。というか、思わず出てしまう。足がすくんでいるけど必死に前に出るところがすごく好きです。ですから、ステイルや土御門といったプロたちと一緒にいるときに簡単に同じテンションにならないように、というのはいつも気をつけています。AA逆に言うと今回は、インデックスはわりと横から見守る感じです。監督から見てインデックスはどういう子ですか。―― 錦織 インデックスは当麻から見て分からないもの、手に負えないものをたくさん持っているキャラクターです。けんかをしているシーンが普段から多いですけど、二人でけんかしながら一歩ずつ確かめあうように歩んでいるというイメージですね。確かに日常的には家で留守番しているとか、何か食べているシーンが多いのですけど(笑)劇場版では活躍させることができて良かったです。■ 映画で対照的なキャラクター : アリサとシャットアウラAA今回の映画で監督が思い入れのあるキャラクターはいらっしゃいますか。―― 錦織 今回の劇場版は、それぞれのキャラクターが苦悩を持っているというところで作っていきました。レディリーというキャラクターはわりと悪役的な出し方なのですが、運命に対して抗い、あがいているのが少し哀愁があって、悪役なんだけど好きなキャラクターですね。AA監督から見ると感情移入をしやすいというイメージでしょうか?―― 錦織 運命に対して向かって行くところは、レディリーも上条もあまり変わらないかなと思っています。そこがちょっと対比的に出るといいかなと思いました。脚本の吉野さんが神話的モチーフをより深く掘り下げてくださいました。AAアリサとシャットアウラはどうですか?―― 錦織 シャットアウラは、鎌池さんから原案をいただいたときからかなり思い入れがあったキャラクターです。彼女の自分の中にある怒りとか悲しみ、葛藤を内面に閉じ込めて秩序とか規律に向かって行動をする姿がすごく魅力的なんです。AAアリサの素直さとすごく対照的ですよね。―― 錦織 だからこそアリサをすごく素直な、頑張っていくというポジティブなキャラクターにできたと思います。劇中にいる2人のキャラクターとしてはすごくいいなと思っているんです。AA宇宙のシーンはメカニックもかなり華やかです。相当、力を入れられたと思います。―― 錦織 今回はプロットの段階からかなり細部まで映像的なイメージを決め込んでいるんです。それに対してお話やキャラクターの動きを当てはめていった感じです。脚本以前から先行して舞台になる場所の美術やメカなどを3DCGで作り始めています。画コンテが完成してから必要な画面や動きを切り取っていくというアプローチにしました。作品全体のスタイルとして、画面の密度感やスケールの大きさを出すことがテーマとしてありましたから、制作フローから見直す部分も必要だったんです。それから劇場版の狙いとして光の表現にこだわっています。そのために美術やメカなどを3DCGで作成することはとても有効でした。AA最後に読者の方にメッセージをお願いします。―― 錦織「とある」シリーズは原作もずっと続いていますし、コミカライズやゲームなど色々な方面に大きく拡がってきています。ともすると、どこから入ってよいのか迷うこともあると思います。今回の劇場版がその入り口のひとつになってくれればと。そして4月からはじまる『とある科学の超電磁砲S』も宜しくお願いします。劇場版『とある魔術の禁書目録-エンデュミオンの奇蹟-』 http://www.project-index.net/