フルハイビジョンの高精細な映像を楽しむことができる液晶テレビ(TV)は、その普及が広がるにつれ、高画質化への要求がいっそう高まっている。 この要求に応えるために、東芝は、LED(発光ダイオード)バックライトの局所輝度制御技術を導入した“メガLEDパネル”を開発し、デジタルハイビジョン液晶TV“ CELLレグザ 55X1”に搭載した。メガLEDパネルにより、これまでの液晶TVに比べ2.5倍となる1,250 cd/m2の高いピーク輝度と、ダイナミックコントラスト500万:1という高コントラストの表示を実現した。メガLEDパネルを搭載したCELLレグザは、引き締まった黒と輝く白を再現できる。1. まえがき 近年、液晶TVの普及は目覚ましく、それに伴って、高画質化への要求が高まっている。これまで、液晶TVの画質の課題として、黒画像を表示した場合にバックライトからの光の一部が液晶パネルを透過してしまうこと(光漏れ)に起因するコントラストの低下があった。 そこで、東芝では、引き締まった黒を表現するためのLEDバックライト制御技術を開発し、レグザ(REGZA) ZX8000シリーズに搭載した。これは、入力映像に応じてLEDバックライトの輝度を変調する技術であり、暗い映像を表示する場合に、LEDバックライト輝度を低下させることで、液晶パネルからの光漏れを抑制し、コントラストを向上させることができる。また、この技術では、LEDバックライトの平均輝度を低下できるため、消費電力を削減することもできる。 LEDバックライト制御技術により、引き締まった黒を表現することができるようになった。そこで、いっそうのコントラスト向上を目指し、コントラストを決めるもう一つの要素であるピーク輝度を高め、輝く白を再現するメガLEDパネルを開発し、CELLレグザ 55X1に搭載した。ここでは、LEDバックライト制御技術の概要と、CELLレグザ 55X1に搭載したメガLEDパネルのコンセプトを述べた後、それを実現するためのLEDバックライトの構造とその制御方法について述べる。2. LEDバックライト制御技術の概要 従来の液晶TVでは、バックライトが常に100%の明るさで発光し、液晶パネルの透過率を入力映像に応じて変調することで映像を表示していた。これに対し、バックライトの明るさを制御する場合は、液晶パネルの透過率も同時に変調することで入力映像に応じた明るさを表示する。LEDバックライト制御技術では、このバックライトと液晶パネルの制御を画面の領域ごとに行うことで、コントラストの高い映像を表示することができる。 液晶TVで使われるLEDバックライト制御技術の概要を、図1に示す。LEDバックライトは、光源となるLEDが画面全体に並置され、その明るさが画面の局所領域ごとに変調できる構成となっており、入力映像に応じて各LEDの明るさを制御する。処理の流れを以下に示す。(1)LEDバックライトの輝度設定:まず、入力映像を領域に分割し、各領域の映像の明るさに基づいて、対応するLEDの明るさを設定する。(2)LEDバックライトの輝度分布計算:各LEDの発光は広がりを持っているため、各LEDの輝度設定値に対して、実際のLEDバックライトの発光はぼけた分布となる。液晶パネルに表示する映像(補正映像)の各画素の透過率は、実際のバックライト輝度に基づいて設定する必要があるため、1領域のLEDが発光した場合の発光分布(LED 発光プロファイル)と各LEDの輝度設定値を用いて、実際の輝度分布を予測する。(3)補正映像の生成:LEDバックライトの輝度が空間的に変化しているため、入力映像をそのまま液晶パネルに表示すると、LEDバックライトの輝度分布が液晶TV上で映像のむらとして視認される。そこで、LEDバックライト輝度分布の予測値に基づいて入力映像の補正を行う。 この処理の流れに基づいて、入力映像の暗い部分のLEDの輝度を低下させ、同時に補正映像を液晶パネルに表示することで、液晶パネルからの光漏れが低減され、暗部の引き締まった高コントラストな映像を表示することができる。3. メガLEDパネルのコンセプト LEDバックライト制御技術により、液晶TVに引き締まった黒が再現できるようになったが、メガLEDパネルでは、更にピーク輝度を向上させることで、輝く白の再現を目指した。しかし、単純に画面輝度を向上させるだけでは、映像によってはまぶしい表示となってしまい、長時間視聴した際に目の疲れを引き起こす。 そこで、メガLEDパネルでは、図2に示すように、画面全体が明るい映像では、LEDバックライトの輝度を低下させることでまぶしさを抑え、一方、画面全体が暗く、一部が明るいような明暗の差が大きい映像では、明るい部分のピーク輝度を高めることで、輝く白を再現させることにした。 LEDバックライトの仕様は、液晶TVのコントラストに大きく影響する。LEDバックライトの分割数は、液晶TVの引き締まった黒の再現能力に、ピーク輝度は、輝く白の表現に密接に関係している。そこで、LEDバックライトの分割数、メガLEDパネルのピーク輝度と画質の関係を調査した。3.1 LED バックライトの分割数 LEDバックライトの分割数を多くするほど、入力映像の明るさの変化とLEDバックライトの輝度分布を一致させることができ、液晶TVのコントラストを高め、黒の表現能力を改善することができる。しかし、分割数を多くするとLEDの数やLEDを発光させるための駆動回路が増加し、コストが上がってしまう。 そこで、分割数とコントラストの関係を調査し、メガLEDパネルで使用する最適な分割数を求めた。その結果、分割数の増加に伴いコントラストの主観評価値は上昇するが、512分割で、プラズマディスプレイやブラウン管のような自発光型ディスプレイと同等のコントラスト主観評価値が得られることを確認できた。そこで、メガLEDパネルのLEDバックライト分割数を512 領域とした。3.2 メガLED パネルのピーク輝度 液晶TVはピーク輝度を向上させることで、輝き感のある映像を表示することができるが、過度に高いピーク輝度で映像を表示すると視聴者にとってまぶしい表示となってしまう。更に、ピーク輝度を高めるほど、必要なLEDの数も増加するため、コストが上がってしまう。 そこでピーク輝度と輝き感の関係を調査し、適切なピーク輝度を求めた。その結果、ピーク輝度を一般的な液晶TVの画面輝度500 cd/m2 の2.5倍となる1,250 cd/m2 とすることで、昼間の明るいリビングのような視聴条件でも、まぶしさを感じず輝き感の高い映像を、液晶TVで表示できることを確認できた。そこで、メガLEDパネルのピーク輝度を1,250 cd/m2 とした。4. メガLEDバックライトの構造 メガLEDパネルのLEDバックライト(メガLEDバックライト)は、従来よりも高いピーク輝度と分割数が必要となる。開発したメガLEDパネルの構造を図3 に、メガLEDバックライトの内部構造の一部を拡大した写真を図4 に示す。LEDは、LEDバックライトの分割領域ごとに対応して、回路的にブロック分割して配置されており、ブロックは、32(横)×16(縦)の512 領域に分割されている。 LEDの発光スペクトルは、液晶TVにとって、十分な色再現性を確保するために、白色LEDとして一般的な黄色蛍光体を用いたものではなく、青、緑、赤に発光ピークを持つLEDを採用した。これにより、従来の冷陰極管を用いた液晶TVよりも鮮やかな発色ができるようになった。 メガLEDバックライトは、レグザZX8000シリーズに搭載されたLEDバックライトの5倍以上の分割数と、2.5倍のピーク輝度で制御を行うため、LED 駆動回路の規模が非常に大きくなる。そこで、LEDドライバICを新規に開発し、駆動回路規模の縮小と高効率化を図った。また、垂直周波数120Hzでの液晶パネルへの映像の表示に対して、512 領域のLEDバックライトの輝度制御を同期させるために、LEDバックライトの輝度制御信号を高速に伝送できる独自のシリアルインタフェースを設けている。更に、LED 基板とLEDドライバIC基板間などを接続する配線についても簡素化を図り、配線長ができるだけ短くなるような機構及びLED 基板配置とした。 メガLEDパネルでは、LEDバックライトの薄型化と狭額縁化にも取り組んでいる。LEDの発光プロファイル及びその配置と、LEDバックライトの空間厚との関係を最適化することで、LEDバックライトの厚さをレグザZX8000シリーズと比較して約20mm薄型化し、更に、額縁を上下左右ともに5mm程度狭額縁化した。5. メガLEDバックライトコントロールシステム メガLEDパネルでは、“CELLプラットフォーム”と新開発のメガLEDバックライトコントロールシステムとの組合せで、液晶TVに高いダイナミックレンジの映像表現ができるようになった。以下に主な特長を示す。5.1 LEDインテリジェントピーク輝度コントロール メガLEDパネルは、1,250cd/m2 のピーク輝度で映像を表示することができるが、常に高いピーク輝度で映像を表示すると、まぶしい表示となるだけで、ダイナミックレンジの高い表示とはならない。そこで、入力映像の明るさを解析して画面全体が明るいシーンではまぶしさを抑えた映像に自動調整し、明暗差の大きなシーンではコントラストを強調して明るい部分のピーク輝度を高めるような、人間の視覚特性に合わせたLEDバックライトの輝度制御と映像の補正処理を行うLEDインテリジェントピーク輝度コントロールを開発した。 更に、部屋の明るさや照明の色などの視聴環境を検出して最適な画質に調整する“おまかせドンピシャ高画質”と連動することで、照明を落とした暗い部屋から、昼間の明るいリビングまで、常に輝き感の高い映像を液晶TVに表示することができる。5.2 CELLプラットフォームによるLEDバックライト制御 液晶パネルの画素数(1,920×1,080画素)に比べ、LEDバックライトの分割領域の数は一般に数十~百程度と少ないため、入力映像の空間的な明るさの変化や映像の動きの変化に対するLEDバックライト輝度変化の追従性が悪くなり、表示映像にむらやちらつきが発生することがある。メガLEDパネルでは、512領域でLEDバックライト輝度をきめ細かく制御することで、映像に対するLEDバックライトの輝度分布の追従性を向上させ、これらの問題を改善している。 更に、メガLEDバックライトコントロールシステムでは、512領域のLEDバックライトの輝度を求める際に、図5に示すように、その約4倍となる2,096領域で入力映像の明るさを検出している。このように、より細かい領域で映像を解析することで、映像の明るさ変化に対するLEDバックライトの輝度変化を細密に制御することができる。また、同時に、映像のヒストグラムを検出し、映像の明るさの分布分析(黒面積の把握)を行うことで、入力映像に最適なLEDバックライトの輝度を設定できるようになった。5.3 メガLED バックライトコントロールLSI 新開発のメガLEDバックライトコントロールシステムを図6に示す。メガLEDバックライトコントロールLSIは、CELLプラットフォームと連動して、映像に応じて512領域のLEDバックライトの輝度と、LEDバックライト輝度分布に応じた映像信号の補正を行う。映像信号補正処理は、18ビットの高精度処理を実現している。 更に、映像の暗い領域で、LEDバックライト輝度を低下させたときの画面輝度の低下を補う映像補正のゲイン量を512倍まで処理することができ、映像の明部から暗部までのすべての階調性を豊かに表現することができる。6. あとがき CELLレグザ 55X1は、メガLEDパネルにより、ピーク輝度1,250 cd/m2、ダイナミックコントラスト500万:1という、これまでにない高いダイナミックレンジの映像表現ができるようになった。 今後もいっそう高画質な液晶TVの実現へ向けて、ハードウェアとソフトウェアの両面で開発を進めていく。■執筆者(敬省略)・馬場 雅裕 BABA Masahiro研究開発センター マルチメディアラボラトリー研究主務。ディスプレイシステム及び画像処理技術の研究・開発に従事。電子情報通信学会,SID 会員。Multimedia Lab.・尾林 稔夫 OBAYASHI Toshioビジュアルプロダクツ社 コアテクノロジーセンター AV技術開発部主務。高画質化技術の開発に従事。Core Technology Center・土屋 竜二 TSUCHIYA Ryujiハリソン東芝ライティング(株) 開発技術統括部 LED 技術部主務。液晶用バックライトシステムの開発・設計に従事。照明学会会員。Harison Toshiba Lighting Corp.※同記事は株式会社東芝の発行する「東芝レビュー」の転載記事である。
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