基調講演後半では、IPTVやDLNAなど新しいサービスの話から、メディアビジネスの今後の動向やあるべき姿についてのスピーチが披露された。 古川氏によりば、デジタル技術の支えになっているのが、2001年にフレッツに継続して加入した人に提供されていたキャンペーングッツ「フレッツロボ」だという。意外かもしれないが、これが登場した時にはかなりの衝撃があったという。 このロボットは、自分自身がIPネットワークに繋がり、サーバ機能を持っている。目が付いていてキャプチャした映像を動画もしくは静止画でサーバとして送り出す機能を持っている。さらに手には赤外線のリモコンが付いていて、家庭の中のAV機器を携帯電話で制御できる。「これがもしPCで制御していたら何の関心もなかった。何で驚いたかというと、IPネットワークのボトルネックというのは、IPスタックなのだが、そのボトルネックを取り除くために、OSとプロトコルスタックを1から作ってこのロボットに組み込んだからだ。さらに、HDDレコーダにカテゴリ5のLANポートが付いたものの約8割に、フレッツロボで初めてできたコンポーネントが使われている。」と話す。 IPTVの最新動向として、So-netのIPTVサービスや、AppleTV、六本木ヒルズのIPTVの事例を紹介した。 六本木ヒルズでは、3年前からIPTVが活用されている。ビデオケーブルの代わりにカテゴリ6のLANケーブルを繋いで、300台以上のプラズマディスプレイ等の端末に天気予報やニュース、映像などのコンテンツ配信をしている。これは、閉じたネットワークで作られていて、外のネットワークとつなげない。その理由は、技術的な問題ではなく、商慣習の問題であるという。 「こういったボックスというのは次から次へと新しいものが登場してくる。その上に、どういうサービスを実現して、さらに発展させるか、という柔軟性を決して見逃さないようにすることが重要である。」と主張する。欧米でのIPTVの発展事例に、Verizonの「FiOS TV」がある。電話事業者が行っているサービスとは思えないほど画期的な放送サービスだという。 日本では、家庭の中で写真や映像が共有できる「DLNA」という規格があり、DLNAが製品に組み込まれつつある。スペックの低いデバイスでもあり得る。 DLNAの活用例として、家庭内ネットワークに接続された2台のテレビにハイビジョンの映像伝送するデモが披露された。HDの映像をIPで伝送しようとすると、スピードの上限があり、家庭のネットワークだと無理じゃないかと思われる。だが、非力なCPUデバイスでも可能だ。DTCP-IPの保護をどのように保持しながら伝送するかがポイントだという。 「これから先は過激な発言」と前置きし、テレビメーカーが共同で作ったテレビポータルサービス「アクトビラ 」について言及した。「アクトビラは、圧縮技術やプロテクションが絞られている。アクトビラの世界は、IPネットワークの文化とは違う、「Walled Garden(閉ざされた世界の中の楽園)」だ。テレビだけが別の領域の閉じた世界を作ってしまわないかと危惧している。特定のメニューや領域にとどまらず、自由にサービスができるようにすべきだ。」と持論を展開した。 続けて、「BBCのホームページトップには、放送事業者であることを捨てて、顧客に向けて自分たちが提供するコンテンツをあらゆるデバイスに提供する会社に生まれ変わると宣言している。どんな伝送路を使うかというよりも、どういうビジネスを新たに生むか、どういうインパクトを文化の上で構築するかが欧米のサービスの根底にある。日本では、高速の伝送を実現することには最先端だが、その上に乗るサービスやコンテンツが乏しいのは非常に残念だ。」と、現状のメディアとビジネスモデルに固執しるぎる国内の事業者に苦言を呈した。 最終的には、「総合的なサービス、デジタルメディアを考えるときに、どんなIPネットワークに接続されているということ以外に、どんなサービスやアプリケーションが実装できるかという開かれた要素が必要だ。」とも語り、技術先行の考え方にも釘を刺した。
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