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神経科学研究に貢献するRbfox3-iCreマウスの開発



-「新しいマウスモデルで脳と体の研究を加速」-

2025年3月17日
岐阜大学

神経科学研究に貢献するRbfox3-iCreマウスの開発 -「新しいマウスモデルで脳と体の研究を加速」-

【本研究のポイント】
・成熟神経マーカーとして知られるRbfox3遺伝子座に、改良型DNA組換え酵素Cre(iCre)をノックインし、特定の細胞型での遺伝子組換えを可能にする新しいマウスモデルを開発しました。
・中枢神経系での遺伝子組換え・・・このマウスモデルを用いて中枢神経系での遺伝子組換え活性を確認し、それらはグリア細胞ではなく神経細胞に限局されることを確認しました。
・末梢組織での遺伝子組換え・・・坐骨神経に加え、心臓、膀胱、精巣などの末梢組織で遺伝子組換え活性が確認されました。

【研究概要】
 岐阜大学 高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT) 村田知弥 特任准教授、応用生物科学部 橋本美涼 助教らの研究グループは筑波大学との共同研究で、成熟神経マーカーであるRbfox3 遺伝子座に改良型DNA組換え酵素Cre(iCre)をノックインした新規マウスモデルを開発しました。さらにCreによる遺伝子組換えを蛍光により可視化できるマウスを用いた解析により、Rbfox3-iCreマウス中枢神経系および末梢組織における遺伝子組み換えの場を明らかにしました。
 本研究成果は、日本時間2025年2月13日にFASEB BioAdvances誌のオンライン版で発表されました。

【研究背景】
 Cre-loxPシステム注1 に基づく細胞特異的な遺伝子組換えは、生物学的プロセスや疾患の理解に大きく貢献してきました。元々マウスが持たないDNA組換え酵素であるCreを特定の細胞で発現させたCreマウスは、組織特異的遺伝子欠損マウスを作製する上で欠かせないマウスです。今回の研究では、成熟神経が特徴的に発現するRbfox3遺伝子の3′非翻訳領域注2 に、内部リボソーム進入部位(IRES)注3-iCreカセットをノックイン注4 することで新規のRbfox3-iCreマウスを作出しました(図1)。これによりRbfox3遺伝子発現細胞において、Creタンパク質が発現すると考えられます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202503175862-O3-8R3efaOC
図1. Rbfox3-iCreノックインマウスの概要
  Rbfox3は成熟神経マーカーとして知られるNeuN/RBFOX3をコードする遺伝子である。本研究ではマウスRbfox3遺伝子座の非翻訳領域に対し、ゲノム編集技術を用いてIRES-iCre配列をノックインしてRbfox3-iCreマウスを作製した。これによりRbfox3遺伝子発現細胞においてiCreタンパク質が産生される。

【研究成果】
 ゲノム編集によりRbfox3-iCreマウスを作製したところ、このマウスの出生率や体重に異常はありませんでした。Rbfox3-iCreマウス成体脳において、iCreタンパク質の発現が確認されましたが、正常マウスに比べRBFOX3タンパク質の発現が50%程度まで減少していました。Rbfox3遺伝子欠損マウスは脳重量や神経新生の低下を引き起こすことが知られていますが、本マウスはこれらに影響を与えないことを確認しました。
 次にCreによる遺伝子組換えを蛍光により観察できるマウスを用いた解析を行い、Rbfox3-iCreマウスは胚発生中に中枢神経系および心臓で遺伝子組換えを誘導することが明らかになりました(図2)。成体脳では期待通り、神経細胞で遺伝子組換えが観察され、アストロサイトやオリゴデンドロサイトといった神経細胞をサポートするグリア細胞では観察されませんでした。末梢組織では、坐骨神経において組換えが認められ、心臓の一部の心筋細胞、膀胱の排尿筋層、精巣の生殖細胞などの他の末梢組織においても遺伝子組換えが確認されました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202503175862-O4-4wIiCi0i

図2. Rbfox3-iCreマウスを用いた遺伝子組換えの場の検証
  Rbfox3-iCreマウスと遺伝子組換え可視化マウスを交配して得られた仔の蛍光観察を行った。緑色蛍光は遺伝子組み換えが起きていない細胞、赤色蛍光は遺伝子組み換えが起きた細胞を示している。胎仔は中枢神経系と心臓において強い赤色蛍光が観察された。坐骨神経は神経繊維が赤色蛍光を発しており、それを取り巻く非神経細胞は緑色のままであった。心臓では組換えが起きた心筋細胞と非組換え心筋細胞がモザイク状に分布することが判明した。膀胱では排尿筋層において遺伝子組換えが起きることが明らかになった。

【今後の展開】
 本研究は、Rbfox3-iCreマウスが中枢神経系の神経細胞、末梢神経および一部の末梢組織や生殖細胞で遺伝子組換えを誘導することを示しました。遺伝子組換えに用いられるCreマウスは数多く出回っていますが、Cre組換えの標的細胞に関する特徴づけはマウス系統毎にばらつきがあり、データが不十分なCreマウス系統もあります。そのため、研究に活用できるかどうかは研究者自身での特徴づけが必要な場合が多くありました。本研究では、新たに開発したRbfox3-iCreマウスについて、胎生期と生後組織でのCreによる遺伝子組換えの詳細な情報を提示しました。本マウス系統を活用して、他の研究者が研究対象とする遺伝子について、神経細胞をはじめとした細胞での機能解析に役立てることが期待されます。

【研究者コメント】
 本マウス系統が多くの研究者に簡便に活用できるよう、理化学研究所バイオリソース研究センターへの寄託手続きも進めています。成熟神経細胞のみならず、心臓でのモザイク遺伝子欠損などにも活用できる可能性があります。皆様の研究にお役立ていただけますと幸いです。

【謝辞】
 本研究は公益財団法人日本応用酵素協会、JSPS科研費JP22H04632, JP20H00444の助成を受けたものです。

【用語解説】
注1:Cre-loxPシステム
Cre-loxPシステムは、特定のDNA配列(loxP)を認識して切断する酵素(Cre)を利用した遺伝子操作技術です。このシステムを使うことで、特定の遺伝子を特定の細胞や組織で選択的に操作することができます。

注2:3′非翻訳領域
3′非翻訳領域は遺伝子の末端に位置する部分で、タンパク質に翻訳されない領域です。この領域は、遺伝子の発現調節やmRNAの安定性に重要な役割を果たします。

注3:IRES(内部リボソーム進入部位)
IRESは、mRNAの内部に存在する配列で、リボソームが直接結合して翻訳を開始する部位です。これにより、通常のキャップ依存的な翻訳とは異なる方法でタンパク質合成が行われます。

注4:ノックイン
特定の遺伝子配列を特定の場所に挿入する遺伝子操作技術。これにより、遺伝子の機能を研究したり、新しい機能を持たせたりすることができます。

【論文情報】
雑誌名:FASEB BioAdvances
論文タイトル:Characterization of the Rbfox3-IRES-iCre knock-in mouse: Revealing gene recombination activity in neural and non-neural peripheral tissues
著者:Shiho Nishino*, Misuzu Hashimoto*, Swapna Paramanya Biswas, Natsuki Mikami, Yoshikazu Hasegawa, Hayate Suzuki, Woojin Kang, Seiya Mizuno, Kazuya Murata#(*同貢献度、#責任著者)
DOI: https://doi.org/10.1096/fba.2024-00143

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