なお5Gの発表会で毎月の料金を「3,480円~」と、割引き前提でデータ料金のみをアピールするというのは従来からの悪しき習慣であり、これはいただけない。プレミアムな5Gサービスだからこそはっきりと「月額いくら」と、割引の無い素の価格で表示してほしかった。なぜなら5Gは安さを勝負するサービスではないからだ。とはいえメリハリプランでデータ50GB+動画サービスを含む主要SNSが使い放題、そして5G端末の分割代金を合わせ毎月1万円前途という価格は諸外国と比べても悪いレベルではないだろう。
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一方、エリアに関しては新しいプレミアムなサービスである5Gの利用を促進するには大きな不満が残る。3月末にサービスインするエリアは東京駅から新橋付近と秋葉原駅周辺などはかなり狭い。わざわざそのエリアに行かなくては5Gを体験できないとなると、他のエリアでは5Gスマートフォンを持っていてもそのメリットは全く受けられない。
5Gのメリットの1つは通信速度の高速化だが、YouTube動画が4Gよりも高画質で視聴できるといった従来からのサービスの品質向上だけではなく、5Gの特性を生かしたサービスもこれから提供されていく。ソフトバンクは5Gの開始に合わせて5G向けのコンテンツ「5G LAB」を開始するが、4G環境ではそれらコンテンツを十二分に楽しむことは難しい。
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5Gのエリアはかなり狭い。夏以降もスポット展開だ
たとえば「FR SQUARE」はアイドルのライブをメンバー1人1人のカメラがおいかけ、全体のステージだけではなく自分の「推しアイドル」だけをポップアップで別画面表示できる(3名まで)。ステージ全体を視聴しながら、アイドルの拡大画面を別画面で追加表示できるのだ。筆者は類似のサービスを韓国で使っているが、5G回線では画面の切り替えも瞬時でスムースだ。しかし4G回線では画面をタップするたびに切り代わりまで数秒から十数秒またされてしまい、せっかくの新しいサービスも見ようという気がおきなくなる。その結局、スマートフォンのアンテナバー部分に「4G」と表示されているケースが多くなると、全く使わなくなってしまうのだ。
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ソフトバンクとしては都内の主要エリアを中心に5Gのカバレッジエリアを広げていく考えだ。そのため2020年中は5Gスマートフォンを持っていても自分のいる場所が5Gのカバレッジエリカかどうかを確認しつつ、電波サーチを行いながら5Gを使う、といった多少不自由な使い方をとなってしまうだろう。もちろん従来の3Gや4Gより高い周波数のSub-6を使うためエリアの拡充は難しい。そのため現状の5Gエリアの展開は「点から面」のように広げているが、4Gと5Gのサービス品質に大きな格差が見られるようであれば、5Gを契約したユーザーの満足度も大きく下がってしまう。都内でのカバレッジについては「5Gを使える場所を増やす」のは重要だが、「5Gが確実に使えるエリア(例えば東京駅から半径5Km以内のように)」を順次増やすことも検討してほしいものだ。
ソフトバンクは2020年12月末までに5Gの人口カバー率90%を目指すとしている。4Gと5Gで同じ周波数を共有する「DSS」(Dynamic Spectrum Sharing)が導入されれば、既存の4Gエリアをそのまま5Gエリアにもできる。DSSの導入には総務省などによる議論が必要だが、5Gの全国展開を早めるためには導入は必須だろう。また2021年にはより高い周波数のミリ波の商用化も始まる予定だ。
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ソフトバンクの5Gサービスは4G時代に提供できなかった新しいユーザー体験を提供できるものの、それをフルに体験するには利用エリアの拡充を待たねばならない。しばらくは「5Gが体験できる場所探し」を強いられそうだが、海外に出遅れた5Gを日本で体験できる日がようやくやってこようとしているのだ。
TEXT:山根康宏