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5回目となる同イベントは、仙台市とフィンランド共和国オウル市との独自ネットワークを活用し、仙台・東北にゲーム/ICT産業を構築するために設立されたコンソーシアム「グローバルラボ仙台」が仙台市と中心となって開催している。
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「ITコンテスト」は課題解決型サービス部門と銘打たれ、仙台市内の大学および専門学校から厳選された6チームが、地元のIT企業の徹底指導により、半年間かけて、企画・設計・開発を学び、学生が感じる身近な課題をITで解決した作品をプレゼン発表した。また、会場はステージとは別に実際にアプリを体験できるコーナーも用意されていた。
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オープニングでは、「仙台市経済局」局長の遠藤和夫が、「グローバル仙台」GM・「仙台市経済局」産業振興課長の白岩靖史が来場者への挨拶と激励を行った 。
IT審査員が語る「これから求められるIT人材について」
同日の司会進行は「グローバルラボ仙台」代表幹事の原亮氏とタレントの渡邉冴子氏が務めた。
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審査員は「アンデックス株式会社」代表取締役の三嶋順氏、「マイクロソフト株式会社」マイクロソフト コーポレーション クラウド・デベロッパー・アドボケイトの千代田まどか氏、「楽天株式会社」ECビジネスエンパワーメント課シニアマネージャーの南條融氏、「株式会社イトナブ」代表取締役・「一般社団法人イトナブ石巻」代表理事の古山隆幸氏、「株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ」DOCOMO Innovation Villager Manager・「グローバル仙台」元GMの篠原敏也の5人。
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学生のプレゼンテーションの前に、「4Growth」代表の佐藤将太氏がモデレーターを務め、5人の審査員に「株式会社メルカリ」CSグループHR・アンバサダーの佐藤浩太郎氏を加えたトークセッションが行われた。
近年は、楽天やメルカリを始めとした様々なIT企業が仙台市にオフィスを構えるなどIT産業の集積が進んでいるが、古山氏は「10年後、一般企業にIT人材が必要な時代が来ると予想される中、現状は人材不足なので、若者達をもっと育てていく気風を持たなければ首都部に人材を採られてしまって地方に人材が残らなくなる」と人材育成の重要さを訴えた。
佐藤浩太郎氏は「地方にいたとしても、東京や世界を見据えてキャリア形成をしていかないと」と訴え、ITビジネスでは外国人も雇用する時代になって、新卒をグローバルの視点で採用した時に日本人があまり採用されない現状がある」と話した。
南條氏は、「業界が求める人材の風潮もあって、日本人は何でも一通りできるエンジニアが多いが、外国人のエンジニアは特定の分野で突き抜けているスペシャリストが多い。スペシャリスト同士を上手く編成してチームを作ることで高いパフォーマンスを見せてくれるので、自分達の会社はスペシャリストの人材を採っている。なので、学生にもスペシャリストを目指して欲しい」と訴えた。
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「どういった人材と働きたいか?」については、千代田氏は「うちの会社の事例で言うと、学びの姿勢があって、様々な意見に耳を貸せる柔軟な思考を持つ人。マイクロソフトでは新卒に対して、『我々に染まらず新しい風を吹かせてください』と言います」と答えた。
一方で、日本は上司に忖度して自分の意見を言わない若手も多いことに対し、経営者の視点から三嶋氏は、「うちは会議などでは、私の意見でも社員に良くダメ出しされる。嬉しいし、悔しい(笑)。社員から学ぶことも多いと感じている。うちはエンジニアの集団なので、私自身が社風を従来の風潮から変えていかないといけないと思っている」と答え、他の審査員も若手が積極的に意見を言える社風に同意を示した。
その上で、南條氏は「採用する場合は、会社のビジョンに共感して一緒の方向を向いてくれる人がベース。ただし、自分で学ぶ姿勢がないと、全部が受け身になってしまう。うちも技能を教えるような研修制度はあるけど、どうキャリアに結びつけるか自分で決められ人材でないと採用になかなか繋がらない」と本人の主体性が重要だと伝えた。
篠原氏は、「遊んでいる人が欲しい。つまり、この世界をもっと知って欲しい。学生の内に勉強や研究だけ一生懸命やっても、大学の勉強はそのまま企業で使えるものと使えないものがあるから、それ以外の経験の幅が人を形成すると思っている。色んなことを見てきたか、チャレンジしてきたか、そこがあるだけで何か企画を考えた時に内容が盛り上がる」と訴えた。
最後に審査員全員が共通して学生に訴えたのは、「失敗を恐れないこと」「積極的にチャレンジすること」だった。
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課題解決型スマホアプリ部門プレゼンテーション
6チームの中から4チームのみが同日に臨んだ。それぞれが3分間のプレゼンテーションと、審査員からの4分間の質疑応答が設けられている。学生達は同日のために審査員の篠原氏に徹底的にプレゼンテーションを鍛えられたという。
1.「Glip」/fishers(東北大学)
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同アプリは、SNSを活用したグルメ捜しアプリだ。SNSでふと目に入った美味しそうな料理や雰囲気が良い、気になるお店の場所と名前を抽出してリストに登録してくれる。グルメ意識が高い層であれば自分ですぐにお店に行く行動を取るが、そこまでグルメ意識が高くない中間層をターゲットにしている。
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探すのが面倒くさいと思う人でも、簡単に美味しいお店に訪れることができる。SNSで見つけたお店をアプリで登録しておけば、マップ機能があるのでお店に近づいたら通知してくれる。忘れていた時にも思い出せるのがミソだ。
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千代田氏に一番苦労した点を聞かれると、Twitterの投稿から文章を抜き取って地名と店名を抽出することがまだまだ難しいとのこと。とくに店名が固有名詞だと特定が大変になる。抽出はグーグル検索と機械学習に頼っている。
南條氏に「今からでも使いたいアプリ。閃きはどこから?」と聞かれると、自分達の経験から「Twitterのタイムラインで良いねと思ってもすぐ流れてしまう。いいなと思うお店は東京が多く、普段は東北にいるので行く機会は何ヶ月先になってしまうと、後から行きたくなっても遡れない。その解決策を図ったという。
2.「iiiT」/全脳アーキテクチャ若手の会 東北支部(東北大学)
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同アプリは、会議などでの知ったかぶりをなくすコミュニケーション支援を目的としている。「知ったかぶりの経験はありませんか?」「後々、誤解が生まれて困ってしまった経験は?」を調査したてニーズありと判断した。
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誰かが発言した内容から重要なキーワードを抜き出して表示し、カメラを通して表情から本人の理解度を読み取り、さらに補助も兼ねて自身の自己申告制で分からないキーワードを指摘して自身の理解度数を示すことができる。また、ワードはすぐにWikipediaやGoogleで調べることができるのがポイントだ。全く理解度が向上しない会議は生産性がないと数字から評価することも可能になってくる。
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千代田氏は、「理解度を自動で入力できるため、忖度して理解度をMAXにしてしまう人も居るのではないか?」と指摘。これに対しては、数字という形にしたことで、ある程度忖度する必要がないようにできたと判断しており、カメラで表情だけ読み込むとまちがうこともあるため、自己申告機能は付けたという。
ちなみに、表情から読み取る機能の参考データは、現在チームメンバー数人だけだが、9割近い精度の高さを持っている。将来的にはさらにデータを集めるので、精度をもっと高められると見込んでいる。また、会議以外にもプレゼンテーションやトークセッションにも流用可能なシステムであるため、学校や塾の授業のような教育面でのアプリ利用も考えているそうだ。
3.「Ienb」/nullpo(東北大学)
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同アプリは、人と人の間にある貸し借りのトラブル解決を目的としている。一つのグループの中で貸し借りの記録をログに残せ、返却期限が近づいたら通知もあり、メッセージによるやり取りも可能だ。また、返却しないと当人の評価ポイントが下がるため、周りが貸すか否かの判断材料にもなる。
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売買とは別の流通性を高めることができ、貸し借りのデータ化によって、ダイレクトマーケティングなど、新たな価値を生み出せるのではないかと見込んでいる。
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実は同アプリは当初はRuby言語でプログラミングしていたが、制作進行で不安があったため、2週間ほど前に急遽、Go言語に切り替えたことで開発が捗ったという。
古山氏に「時代に合っているのかなと思った。次のターゲットや今後の展開は?」と聞かれると、当初は知人間の貸し借りが多い高校生や大学生をターゲットにしているが、将来的にはビジネスサイドの展開をしたいとのこと。例えば、スキー場のスノボーなどの器具レンタルは、予算的に大きな管理システム導入は難しいため、同アプリなら利便性も高く、活用してもらいやすいと訴求した。
4.「カロリークエスト」/カロリー旅団(WEB×IOT枠)
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同チームは1月開催のIoT の世界に踏み出したい若者向けのスキルアップイベント「Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19 in 仙台」優勝の特別枠で参加した。優勝時の作品であるランニングやウォーキングなどを通して1番早く指定のカロリー量を消費した人がご褒美でもらえる宝箱「カロリークエスト」を、デバイスを利用するアプリ向けに仕上げてきた。
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ダイエットは一人でするのはつまらない、最初はやれていたけど続かないといった悩みから、「仲間同士でカロリー消費を競い合う」クエストアプリを使うことで問題解決を試みる。アプリでは、競争相手と目標を設定したらウォーキングやランニングで消費するだけだ。歩数はサーバーを経由して自動でランキング化される。一番早く達成した人のアプリには実在で用意した宝箱解除ボタンが表示される。
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社会人になって経済的に余裕を持ち始めたことで飲み会などが増え、気付かないうちに太ってしまった20代をターゲットにしている。
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南條氏は「優勝は宝箱が開くコンセプト設計が面白かったから評価されたと思いますが、デバイスだけでできるようになったことで、さらに進化したと思う。今回アプリにしたことで大変だったことは?」と聞いた。
やはり、優勝後から間もなく、テストなどで開発時間が取れなかった中で、アプリとして手軽に使えるように開発を進めるのが大変だったという。それと歩数を取るのが大変で、どのようにするのが効率良いかを試行錯誤したのもあった。今後は、ウォーキングとランニング以外の運動でもランキング反映できるように取り組みたいとした。
また、「この報酬でこんなものがあったらいいな?」と独自調査すると、宝箱を開けた時に好きな声優のボイスで応援してくれると頑張れるといった声があり、その人に合わせた報酬にすることで実際のダイエットに有効活用できるのではないかと見込んでいる。
表彰式
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最優秀賞に選ばれたのは「Glip」/fishers(東北大学)。完成度の高さやデザインの良、今すぐ使いたいと思える点が評価された。実はメンバー4人の内、3人が前回の「DA・TE・APPS!2018」でも同じチームで最優秀賞を受賞したという。「ある意味“2連覇”だった」「かなりチャレンジングだったため、今朝ギリギリまで調整したことが報われた」と4人は喜んだ。チームには賞金30万円と副賞が与えられた。
南條氏は総括として、「感心したのは皆プレゼンが上手だなと。これだけの人の前で照明が当たって、よくあれだけ落ち着いて自分のテンポを守ることができるなと感じた」と学生を称えた。
古山氏は「こういう場で何かを成し遂げるのは、すでに一歩踏み出している。後は走り出すだけ」と学生の背中を押した。
篠原氏は「プレゼン指導で、ずっと近くで見てきたので僕は感動も一際大きい。ただ、良い開発ができても、ビジネスプランニングに力を注ぐために、一杯遊んで経験も積んで欲しい。ここはただの通過点、これをきっかけにさらに大きな舞台で活躍してもらいたい」とエールを送った。
5回目を迎えた同イベントは、参加する学生のアプリ開発レベル、会場設営などイベント運営が年々レベルアップしており、このような若い学生の活躍が街の活性化、リデザインすることに期待が寄せられる。