【記事のポイント】▼メーカー、小売店の双方に売れるサービスとして展開▼コンサルやログデータの販売まで視野を広げ、プラットフォームビジネスとして稼働させる▼まだ勝ち組のいないインバウンドビジネスは、スタートアップのチャンス■メーカーと小売店の両方に価値を提供するデータベースを構築 国内有数の観光地である沖縄は、外国人観光客にも人気のエリアのひとつとなっている。その沖縄でバーコード(JANコード)を利用したインバウンドビジネスを成功させたのが、株式会社Paykeだ。2014年創業のベンチャー企業だが、地元の観光業者や土産物店にその名を知らない人はいないという。 同社が提供するスマホアプリは、商品情報を多言語で紹介するというものだ。使い方はアプリでバーコードを撮影するだけ。外国人観光客がスーパーや土産物店で買い物する時、気軽に利用することができる。商品情報には用途や素材、原料(アレルギーや忌諱素材の有無)などが含まれるため、メーカーや小売り店舗にも説明が省けるメリットがある。店頭でどういう製品かをアピールできるので、販売チャンスが広がる可能性もあるだろう。 アプリは無料で提供されているが、そのビジネスモデルはどうなっているのだろうか? まず、メーカーはPaykeのデータベースに、商品情報を有料で登録している。これは、いわば外国人観光客向けの販促費だ。店頭で商品を手に取っている観光客に直接応対できることの価値は大きい。登録情報は機械翻訳によって処理されるので、用意するのは日本語の情報で大丈夫。パッケージに新たに手を加えることなく、登録コストだけで広く外国人観光客に商品をリーチさせることができる。なお、有料オプションとして人力翻訳も受け付けているが、こちらの方が機械翻訳より商品がよく売れるそうだ。 一方、小売店舗や飲食店は、専用端末を月額利用料でライセンス契約している。これにより、店員が観光客への説明に使うことができ、陳列棚などに配置すればアプリを持っていない観光客にも多言語対応が可能だ。クーポン機能も用意しており、集客や販促につなげる役割も担っている。 なお、サービスプロバイダー向けにAPIのライセンス提供も行っており、専用アプリやサイトを開発することで、多言語対応の商品説明アプリやサービスを構築することもできる。ほかにも、アプリから収集される商品閲覧のログデータの販売、コンサルティングも手掛け、これによりPaykeを中心としたプラットフォームビジネスが展開されているわけだ。■バーコードならではの導入の手軽さでメーカーの心をつかむ Paykeのプラットフォームビジネスを考えたのは、代表取締役CEOの古田奎輔氏。かつて、同氏はバーコードという広く普及した素材を使って、なにかビジネスができないかと考えていたという。例えば、漫画の試し読みができるサービス、DVDのサンプルムービーが見られるサービス、料理のレシピが検索できるサービスなどだ。 多くのアイデアが浮かぶ中、ビジネスのスタートダッシュを成功させるには、ニーズのあるところへのサービス展開が必要だと感じていたという。当時沖縄に住んでいた古田氏が、訪日外国人に母国語での商品説明を提供するという発想に帰結したのは、自然の流れといえるだろう。 サービス開始にあたって古田氏は、地元の土産物店や特産品の製造元、メーカーに足で営業をかけ、サービスへの参加を呼びかけた。インバウンドビジネスが盛り上がる中、メーカーでは外国人観光客向けのPRや施策を検討していたという。そこに、情報を登録するだけで多言語展開できるというメリットが評価され、導入は一気に進んでいった。小売店でも外国人観光客への接客に困るケースが増えており、ニーズを共有することができたようだ。 いまでは全国で400社以上がPaykeのデータベースに情報を提供している。全国展開するメーカーの商品情報も増えているとのことだが、なぜここまでPaykeは成功できたのだろうか? 古田氏はそれを次のように分析する。「外国人観光客の消費傾向が変わってきたといわれますが、日本製品のこだわりやよい点は必ず伝わります。なにか特別な市場という考え方は必要ありません。ただ、ビジネスプランを考えるときには、日本円より現地通貨で考えることが大切です。過渡期でもあるインバウンドビジネスでは、まだ勝ち組がいません。スタートアップにもチャンスはあります」■消費傾向の変化に対応するプラットフォームビジネスへ Paykeではアプリを利用する観光客に向けては、ほとんどPR活動を行っていない。空港などにチラシを設置する程度で、あとは口コミが基本とのことだ。SNSによる拡散も、あくまでユーザーの口コミベース。それでも、海外の旅行案内サイトや旅行メディアから取材が来ており、外国人の間では着実に認知が進んでいる。 ただ、Paykeの課題について古田氏に聞いたところ、返ってきた答えは「認知度」だった。「おかげさまでPaykeは、沖縄では店舗やメーカーに知らない人がいないいくらいに成長しました。福岡や東京、北海道でもサービスを展開していますが、全国レベルではまだ伸びる余地があると思っています」 Paykeはインバウンドが集まる沖縄だからこそ生まれたもの。ほかの外国人観光客が多い地域においても、そのビジネスは成功の可能性を秘めている。その時に、プラットフォームビジネスとして展開しているPaykeならではの、提供できるサービスの幅の広さが利いてくるだろう。バーコードをマーカーとしたAR的なサービスなどは、海外への展開も可能であり、マーケットデータやコンサルティングなどにビジネスをスケールさせることもできる。 もちろん同社はその先を見据えているが、まずは国内での認知度を上げ、今の訪日外国人向けサービスを盤石なものにすることに集中している。その先に企業、消費者のエコシステムが構築できれば、ニーズや消費動向の変化にも耐えられるだろう。それは、これからのインバウンドビジネスにおいて有効なアプローチだ。