【記事のポイント】▼新たな技術は付加価値をつけるチャンスととらえる▼オンデマンド=自分だけの一品というニーズに対応する▼3Dプリンターはアートを絡めた新たなジャンルを生み出す 少子化やデフレの影響もあって企業の成長が足踏みする中、その活路を新たな業態に生かそうという動きがでている。磨き続けてきた技術を生かしながら、新たな商品やサービスに挑戦する。いわゆる“新業態”だが、従来の方法論が通用しない部分もあって、苦戦を強いられている企業も多いようだ。 10月31日から東京ビッグサイトで開催された中小企業総合展「新価値創造展2016」でも、そんな新業態に挑戦している企業がいくつか見られた。彼らは、どうやって新業態を成功に導こうとしているのか? その方法論から成功への筋道を探る。■オンデマンド印刷という価格破壊に、新たな付加価値を探る 大量生産大量消費から少量多品種へとニーズが移る中で、様々な業種が経営戦略の転換を進めている。印刷業もそのひとつで、注文に応じて小ロットからの印刷に対応する「オンデマンド印刷」を行なう事業者が増えた。 53年創業の総合印刷新報社でも、約3年前からオンデマンド印刷への対応をはじめた。オンデマンド印刷ではデジタル印刷機を使用するため、従来のオフセット印刷に比べてコストを抑えることができる。そのため市場では安価に提供されているが、それは顧客にとってうれしいことでも、企業にとっては売り上げを頭打ちにしている一因となっている。 オンデマンド印刷を続けるには、会社のビジネスとして成立させるための仕組みが必要となる。それを検討しているのが、同社の企画部門を担当する子会社シンポウコーポレーションだ。ここでデザイナーを担当する木川悦子氏によると、現在はノベルティや自社製品などで仕掛けを行なっているという。「ノベルティであれば渡す方の企業名が入っているのと、相手の名前が入っているのでは、貰ったときの印象がまったく変わります。この名入れの部分が、オンデマンド印刷で実現した取り組みとなります。企業名のPRは包装部分に入れればいいわけで、その方がよっぽど価値のある贈りものとして喜ばれますよね」 また、同社ではノートへのオンデマンド印刷も提案している。名入れができるハードカバーの冊子は、終活用のエンディングブックなどに。さらに、大人向けにやはり名入れができるノートを提供しているが、これは以前に行なった子供向けイベントにヒントを得たものとのことだ。「名入れをしたノートに、子供たちが思い思いのデコレーションをするイベントだったのですが、思いのほかにお母さんたちの反応が良かったんです。今の世の中には万人に向けた商品はいくらでもあるので、自分だけの一冊をつくる、貰うという感動に新たなニーズを感じています」 なお、名入れは箔押しでも行なえるが、これも金型を必要とせずに、オンデマンドで印刷できる仕組みを導入している。現場で箔押しをすぐ試せるので、商談時の反応もよく、仕上がりのイメージがつかめるので納品トラブルも少ないとのことだ。■陶器を立体成型? 3Dプリンターの新たなビジネス展開 一方、会場ではプリンターを使って、陶器をつくろうという試みもみられた。これを参考出展していたのは、地図を模型や3Dプリンターで立体的に成形しているトラストシステム。今回の取り組みは素材に土を使うことで、3Dプリンターで陶器を成形しようというものだ。 同社代表取締役の三田幸雄氏によると、これは陶芸家がつくった作品を大量コピーするというよりも、デザイナーがCADでつくった作品を形にするような用途を想定しているという。「人の手や機械では成形できないような複雑な形も、3Dプリンターであれば再現できます。茶碗や花瓶といった一点モノが中心で、現状ではアート作品といった意味合いが強いですね」 素材には有田焼と益子焼で使われている土のパウダーを使用。そこに若干の添加剤を加えるが、用途が食器のため有害物質を一切加えていないのが、同社独自の工夫だという。3Dプリンターで成形後は、実際に釉薬を付けて焼成することになるが、これは窯元での作業となる。なお、現在はテストサービスを行なっている段階だが、すでにアウトプットサービスとしてのビジネスはある程度目途が立っているとのことだ。将来的にはほかの焼き物産地の土を使ったり、素材にファインセラミックを使うことも検討しているという。 なお、デザイナーの作品のいくつかは形としては美しくても、食器としての使い勝手に難のあるものもあるという。また、アーティストとしては仕上がりまでをイメージ通りに仕上げたいため、焼き物職人とデザイナーの橋渡しが不可欠だが、その役割を同社が担うことも想定している。「食器としての実用性があるものを商品化するためにも、デジタル陶芸家のスクールがあっても良いかもしれません。現在、何人かデジタル陶芸に関心のあるアーティストの方にお声をかけていただいているので、作品づくりで生計を立てられるような、1ジャンルを確立するためのお手伝いができればと考えております」 技術の進化はときに価格破壊や異業種参入を起こし、既存の業者を駆逐することすらある。一方で新技術をビジネスに結び付けて成功させることも、そう簡単な話ではない。今回ブースを出展していた2社は、いずれも新技術の台頭にのまれることなく、新たな商機を探ろうとしている。その姿勢や取り組みには、業界を問わない現代の中小企業におけるヒントがありそうだ。