27日まで開催された「ツーリズムEXPOジャパン2015」の伝統的工芸品産業振興協会のブースでは、数多くの工芸品の実演展示が行われていた。灯篭、上布、紙漉き、沈金など、日本の技術の歴史を感じさせる出展ばかりだった。 なかでも、熊本県北端に位置する山鹿市で、1000年の歴史を持つ伝統工芸が目を引いた。山鹿灯篭は、室町時代から伝わる伝統工芸品で、数千点もの部品による和紙と糊だけでつくる芸術品だ。師弟承継の秘技として受け継がれた門外不出の技として、平成25年には経済産業大臣より伝統的工芸品として指定されている。 長い歴史のなかで、金灯篭に始まり、神殿造り、座敷造り、合掌造り、矢壺、鳥籠など、多様な様式の作品がつくられてきたそうだ。すべてに共通する特徴は、木や金具を一切使っていないこと。本当に和紙と少量の糊だけでつくられているのだ。また柱や桟に至るまで中空になっており、非常に軽量だ。 技術的に高度な点は、「局面の接合」だろう。すっきりした線を出すために、糊代を取らずに和紙の切断面に直接糊をつけて貼り合わせている。滑らかに美しく仕上げることが、まさに灯篭師の腕の見せ所だという。 こうして完成した金灯篭は、毎年8月に1000人の未婚女性が頭につけて優雅に舞う「千人灯篭踊り」などで披露される。踊り手の頭上で、ゆらゆらと浮かぶ光は、ため息が出るほど幻想的だという。 また、良質な「高宮布」から続く、長い伝統を引き継いだ「近江上布」も、国の伝統的工芸品に指定されている。近江上布は、大麻を使用し、肌に優しくさらりとした爽やかな清涼感が大きな特徴だ。 琵琶湖を中央に抱き込む近江は、室町時代から麻織物を産する地域として知られている。山に囲まれ、湧き水が豊富なため、織物の仕上げ工程の洗いに最適な場所なのだ。 近江上布の絣(かすり)は、「櫛押し捺染」(なせん)と「型紙捺染」により、糸に模様をつける。櫛押し捺染は、櫛(くし)に似た道具を押すようにして捺染するもので、近江独自の技法だ。一方、羽根と呼ばれる道具を使って型紙で捺染する型紙捺染も、近江で開発された技法と言われているそうだ。 さらに大麻の繊維を裂いて手で糸をつくる「手績み糸」を使用し、高宮布と同様の織機で織る「生平」(きびら)の生地も独特だ。ブースでは、この生平をつくる機織りの実演しており、上質な生地や洋服、グッズの販売も行われていた。