霜降りの良し悪しによって評価や取引価格が大きく左右される食肉牛。霜降り具合には、父牛と母牛の血統をはじめ、エサの種類や飼育の環境など、さまざまな要因が影響を与えると言われているが、実際には肉を切り分けて見てみなければわからない。 畜産業者側からすれば、どの血統の牛をどのように飼育すればよいのか、流通業者にとっては、どうすれば良い食肉牛を見分けられるのか、不確定要素が多い中で試行錯誤を繰り返しながら判断していかなければならない。 そんな畜産業者や流通業者にとって朗報となる画期的な装置が発表された。産業技術総合研究所(産総研)が開発した「核磁気共鳴スキャナー」で、牛をと畜して肉を切り分ける前、生きたままの状態で霜降りの具合を計測できるという。しかも、計測時間はわずか約10秒で、筋肉中の水分量と脂肪量を±約10wt%(wt%=質量濃度、含有率)の誤差で計測することが可能だ。 技術の詳細は3月18日に学術誌「Applied Magnetic Resonance」で公開しているが、今回発表の装置はその技術を活用したプロトタイプ。サーロイン、テンダーロイン、赤身など計17個の牛肉ブロックの試料(約8×8×8cm3)を同装置で計測したが、今後、生きた肉用牛の計測を検討している。これが実用化されれば、畜産業者にとっては牧場での牛の肥育プログラムの改善につながり、流通業者からすればより正確に牛を評価し、適正な価格で取引できるようになる。 「核磁気共鳴スキャナー」は牛だけではなく豚やマグロにも利用できるほか、牛の筋炎など病気の非侵襲診断にも使える可能性が見えている。また、水と油を含む大きな物体をその場で非破壊計測できる装置として、トンネルの壁をスキャンして水をふくむ空洞を検出する、あるいは油汚染された土壌を検出するなど、土木分野への応用も期待される。