この7月、MBSほか各局にて放送開始となるテレビアニメ『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 THE ANIMATION』(以下『ダンガンロンパ』)。2010年にPSP用に発売されたアドベンチャーゲームを原作とし、今回のアニメでもゲームと同じく「超高校級」という触れ込みで集められた個性豊かなキャラクターたちが、特殊な学園という閉鎖空間で推理、舌戦、そして論破を繰り広げるスリリングな内容となっている。今回は監督を務める岸誠二氏と、シリーズ構成を務める上江洲誠氏にインタビュー。おたがいに根っからのゲーム好きという2人に、今回のアニメ化にかける意気込みから、長年の岸&上江洲コンビによるアニメ作りのポイント、また『ダンガンロンパ』の人気マスコット、モノクマを演じる大物声優の収録まで、ネタバレ厳禁な本作の魅力を、ストーリー以外の面から多彩に語ってもらった。[インタビュー取材・構成:野口智弘]■ 『ダンガンロンパ』好きのスタッフがいるからアニメ化しようで始まった―― 岸監督と上江洲さんによる、ゲーム作品のアニメ化は奇しくもこの春の『DEVIL SURVIVOR 2 the ANIMATION』から続くことになりました。―― 上江洲岸監督とは『カーニバルファンタズム(2011)』からゲーム原作物が続きますね。自分としては『うたわれるもの(2006)』からずっとゲーム原作物が多いですね。常々、やりこみプレイが大変です。―― 岸まあ、大変だし、難しいからね(笑)。―― そもそもおふたりが『ダンガンロンパ』に出会うきっかけは?―― 上江洲僕はゲームが出たときに仲間のライターがハマってて、すげえゲームだと教えてもらったのが切っ掛けです。―― 岸俺は今回のアニメーションプロデューサーの比嘉(勇二)君にすすめられて。そのときはアニメーションの企画も何も決まってなかったんですけどね。単純に一ゲームユーザーとして楽しんでました。―― 上江洲 今回のスタッフは、もともとOVAの『カーニバル・ファンタズム』を作った仲間なんですよ。そのプロデューサーの比嘉さんがゲーム好きで『ダンガンロンパ』に惚れ込んで、当時の現場で岸さんにすすめていたんです。その比嘉さんがアニメ化の企画を進めていったんですよね。「次はこれだから!」って。―― 岸 そうそう。―― 上江洲制作の許可をいただけるよう、まず企画書を作るわけですけど、そこでの比嘉さんの企画書って絶対にゲームをやり込んだ人じゃないと作れないレベルものなんですよ。―― 岸何しろ、いきなりモノクマ単体が動いているアニメをラルケの自腹で作って、スパイクに持って行った。こんな風にしようぜって、ラルケスタッフと相談して作りましたよ。―― 上江洲「このメンバーで『ダンガンロンパ』を作りたい。―― 岸 「このチームでやろうぜ!」という雰囲気でしたね。―― アニメ化が決まってスタッフを探すのではなく、『ダンガンロンパ』好きのスタッフがいるからアニメ化しようと。―― 上江洲 そうですね。比嘉さんも僕らがどんな人間か知っていますから、こういうややこしい人間が集まったチームにエッジの効いたタイトルをやらせたいと思っていたんでしょう。岸 僕としても『ダンガンロンパ』は本当に面白い作品だと思っていたので、っていうか一ファンだったので、監督の話が来たときは「やるやるやる!!」って感じでしたね。やっぱりほかの人には触らせたくなかったし。■ アニメ化は、これでもかというぐらいゲームと一緒―― おふたりとも大変お忙しいと思いますが、ゲームはいつ遊ぶんですか?―― 岸誠二氏(以下岸) 私は移動中が多いですね。―― 上江洲誠氏(以下上江洲)「仕事」「寝る」以外の時間はほとんどゲームですね。子供の頃から憧れていたライフスタイルを実現出来ています(笑)。―― 今回のアニメ化で、原作のスパイク・チュンソフトさんからの注文は?―― 岸 何にもないです(笑)。むしろ最初に会ったときに「アニメ用にドンドン変えてください」的な事を言われて、私が「嫌です」と言いました(笑)。「原作スタッフもワクワクするような新しい『ダンガンロンパ』を見てみたいんです」「いやいや、根本的な部分は絶対変えませんから」変わったやり取りが有りましたね。―― 上江洲もし新しく作るんだったら、僕は小高さん(※原作ゲーム『ダンガンロンパ』の企画・シナリオを担当した小高和剛氏)の書く新作が見たいんですよね。僕の出る幕じゃない。―― 岸 ただ「そのままやろう」と言いつつも、当然それを映像化するにはそのまま放り込んで成立はしない。だからゲームで遊んだときの印象を引っ張ってくるという方法論ですよね。『ダンガンロンパ』では学級裁判なんて最たるものですね。とりあえず最近のアニメでは見たことない仕上がりになってると思います。本当に学級裁判のパートをアニメにするのは大変でした。だいたいゲームで操作するパートって、アニメで表現するのは大変なんですけどね。―― 上江洲ゲームをプレイしているときは自分で操作しているからこそ楽しい部分も多いのですが、アニメだとオートゲームみたいな状態なので、例えばそのまま捜査パートをやっても面白くならない。かと言ってそこに原作にないエピソードを差し込むのはNGしたから、シリーズ構成をするにあたって難しかったのはそこですね。どこもかしこもできるだけ再現したい。とはいえ、原作のテキストデータと比較したら、10分の1ぐらいの量にしなければならない。でも、『ダンガンロンパ』の恐ろしいところはテキストが全部面白くて、カットできる箇所もない。―― 岸 お客さんが気に入っていただいてるセリフも多いので、身を切る痛さも半端ではないんですが、それでも「ここは印象に残ってるよね!」というところは出来うる限り残す方向で頑張ってみました。―― 上江洲限られた話数でお客さんが欲しいものをということで、精査熟察しています。ゲームからアニメ化する場合、話数の都合でキャラを減らしたりする場合もありますよね。他には、誰と誰は最初から知り合いとかにして物語をショートカットしちゃったり。それはそれでアリなんですよ。それは同業者としては否定しないです。でもファンとしては原作そのまま見たいよねという心理もわかります。―― 岸 アニメの限られた分数の中で頑張ってみました。ちなみに『ペルソナ4』のときも同じでした。あれも26本使ったって全部は入らないんですよ。今回はさらにピーキーなんですが、一番ありがたいのは脚本会議の段階から、原作の小高さんががっちりいてくれることですね。小高さんが全部チェックを入れてくれて、修正の仕方も相談して。例えば何かを削らなくてはならない場合も原作サイドの小高さんと相談する形でゲームと印象を大きく変えず、映像としておかしくない形にしています。小高さんに脚本会議に毎回来て頂いて本当に助かりました。―― 上江洲 電車がなくなる時間まで毎週いてもらって。―― 岸 本当に申し訳ない(笑)。楽しかったけどね。■ 知恵と勇気で乗り切る原作の素晴らしさ―― ちょうど小高さんのお話が出ましたが、原作の『ダンガンロンパ』はどこが印象的でしたか?―― 岸 まず画面のデザインセンスがすごいですよね。―― 上江洲インターフェイスからして、遊びたくなりますよね。とにかく全パートのセンスがずば抜けている。あんなに図抜けたものが出てきたのが、同じ作り手としてショックだし、喜びだし。お話も絵も音楽もとてもセンスのある作品ですね。―― 岸 PSPということもあって、そんなに大作というわけでもないと思うんですよ。それを知恵と勇気で乗り切っていて、その構成レベルたるや、すさまじいですよ。制作者の技術力の賜物と言うしかない。低予算を逆手に取って作られた初代の『ターミネーター』を思い出しましたね。―― 上江洲 作り手として惚れますよね。超大作じゃなくて低予算と少人数だからこそできた。我々はテレビアニメを作っているので、限られた労力でどうやって面白く、かっこよく見せるかが仕事なんですけど、そういう意味でもすごい。日本人らしいゲームだし、作家の顔も見えていいですね。個人的にはこういう作家性の強い『ダンガンロンパ』のようなゲームは大好きです。■ 岸&上江洲 両氏の夢のゲームとは?―― 少し脱線しますが、もしおふたりが自由にゲームを作るチャンスがあったら、どんなものを作ってみたいですか?―― 岸 うーん、遊んだことがないインターフェイスのゲームを作ってみたい。―― 上江洲 脳波コントローラーとか?―― 岸 そういうこと(笑)。自分にとってはゲームって触ったことがないおもちゃとして欲しいものなので、まだ体感したことがない遊びに興味がありますね。―― 上江洲僕は、夢が叶うのであればアーケードの体感ゲームがいいな。大きいやつがいいですね。―― 岸 ゲームじゃなくても、ちょっと変わったアニメ作りは続けていきたいですね。いままでもそういった作品は結構やらせていただいて、『(天体戦士)サンレッド』なんかもまわりからは「新しい」と言ってもらえたし。―― 上江洲 そうですね。常に変なものを作ってきましたから。『サンレッド』もまわりから見たら完成品がいきなり出てきて「なんでこんなふうにできたの?」となるでしょうけど、僕らとしては完成するまでは考えて考えて正解しぼり込んでいるんです。後編に続く『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』7月よりアニメイズム枠にて放送開始http://www.geneonuniversal.jp/rondorobe/anime/danganronpa/