学生時代から温めてきた企画が、映画の幕間のショートムービーとなり、DVD、さらに劇場アニメにまで成長した。内山勇士監督による『紙兎ロペ』である。紙の兎という奇抜なアイディアに下町を思わせる舞台、ちょっとゆるめのキャラクターとギャグが多くのファンの心を掴む。11月23日には『映画「紙兎ロペ」〜つか、夏休みラスイチってマジっすか!?〜』のDVDも発売され好評を博している。さらに、11月16日からは初の地上波テレビ進出で、フジテレビ「めざましテレビ」で新作がオンエアされている。その人気はますます広がっている。こんな作品を生み出したクリエイターの素顔は、一体? 『紙兎ロペ』の内山勇士監督に、『映画「紙兎ロペ」〜つか、夏休みラスイチってマジっすか!?〜』を中心にお話を伺った。『紙兎ロペ』http://kamiusagi.jp/■ 高校時代にはアキラ先輩みたいな人がいっぱい ―――― アニメ!アニメ!(以下AA)「そもそも『紙兎ロペ』の企画はどこから始まったのでしょうか。まず劇場の幕間からスタートして、そこからDVD、さらに長編映画に広がっていきました。」―――― 内山勇士監督(以下内山)「僕の大学の卒業制作を観たプロデューサーの日下部さんにオリジナルアニメーションの企画・開発プロジェクトで声を掛けていただいたのがきっかけです。3年間くらい試行錯誤もあったり、あとタイミングも合わなくて本稼働しなかったのですが、GiftMovieというTOHOシネマズの幕間で展開する枠のなかで『紙兎ロペ』をやることになってからは、急激にプロジェクトが走り出しました。」―――― AA「3年の期間が空いた時に、ひとつ区切りついた作品といったことはなかったですか?」―――― 内山 「熱が冷めたりはなかったですね。ずっと何か面白いことを思いつくと書きためていましたし、依然として、この紙兎というキャラクターでやってみたいと、ネタをずっと温めていました。」―――― AA「素朴な疑問なのですが、そのキャラクターはなぜ紙なんですか?」―――― 内山 「それを聞かれるといつも困っちゃうんです(笑)。何か手に取れるような素材、みんなが遊んだことがあるような関節が動くかわいらしいおもちゃが急におっさんくさいことをしゃべり始めるギャップが面白いなと思ってです。それで紙兎です。」―――― AA「ロペはかわいいのに少しシュールで、そのバランスが絶妙です。キャラクターを生み出した時にこれはほぼ固まっていたのですか?」―――― 内山 「一番の軸は、先輩後輩関係の絶妙な間や会話を見せたかったことです。その設定は最初から決めていました。」―――― AA「ロペとアキラ先輩の2人が最初に?」―――― 内山 「最初は兎のキャラ(ロペ)しかいなかったんですね。後で、リスのキャラクター(アキラ先輩)が追加されました。」―――― AA「実にそこのコンビが絶妙です。でも、アキラ先輩はかなりひどいやつですが。(笑)」―――― 内山 「先輩って、何かあのくらいむちゃくちゃなことを言うんだけど、後輩は、「そうっすね」と言うしかない。僕の中だけのイメージかもしれないですけど。僕の高校時代にアキラ先輩みたいな人がいっぱいいたので、そういう先輩たちが面白いなと思って、何か描けたらいいなと。」■ 劇場の幕間で知ったファンが育てた「紙兎ロペ」―――― AA「劇場で幕間のショートでやっていられたときの話ですが、それを観るために来ているわけではなく、観客もこちらから選べるわけでもない。そうした大変さはあったのですか?」―――― 内山「逆に結構楽しみでした。どんな方が観てくださるんだろうと。いままで幕間で観てくださった人たちがすごく面白いよと言ってくださって、長編映画まで作らせてもらった感じです。」―――― AA「これまでにDVDが6万枚以上売れています。大ヒットですが、これについてはどうですか?」―――― 内山「何か全然実感はないんですよ。最初は映画館でDVDを販売していただきました。そこからじわじわ買っていただけるようになりました。偶然幕間で観た人が「紙兎ロぺ」が気になって帰りに買ってくれたんだと思うので、すごく嬉しかったですね。」―――― AA「今回は長編映画ということで1時間20分、キャラクターもかなり増えています。これはどうやって考えられたのですか?」―――― 内山 「(映画の共同監督の)青池(良輔)さんやスタッフのみんなと一緒に考えました。サンバチームとか、町中で歩いている子供たちとか、町の規模感が出たらいいなともっと雰囲気をつけた方がいいねなどと言いながら、どんどん増えて、結果100匹ぐらいになりました。」―――― AA「すごいですよね。映画になったことでいままでより苦労したことはありますか?」―――― 内山 「僕は脚本の段階で結構悩んだ部分が多かったですね。2分半ぐらいの尺でずっとやってきましたから80分、40倍の尺になったときにいままでのゆるいタイミングだけでは持たないな、と最初に考えました。そこに波を持たせるのはどうしたらいいか、と。」―――― AA「どのようなアプローチを?」―――― 内山「最初は小さいお話をいっぱい考えて、それでひとつのお話ができるかと思っていたのです。けれどそれはうまくいかなくて、逆に最初にストーリーの大きな流れを決めたところに小さいネタをはめていくという方法に切り替えました。」いまは短編を大量に作り始めています 後編に続く