話題の劇場アニメが相次ぐ2012年だが、『おおかみこどもの雨と雪』はそのなかでもひと際大きな印象を残した作品だろう。『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2012年)により国内外で高い評価を獲得した細田守監督の3年ぶりの長編映画である。高い期待の中で登場した本作はそれに応える傑作となり、世代を超えた支持を集めている。さらに興収も41億円を超え、現在は42億円に迫る勢いの大ヒットだ。10月13日に、この映画大ヒットの御礼を監督自らが語るイベントが、東京・新宿バルト9で開催された。公開からおよそ3ヵ月にもなるが、劇場は満員で、あらためてその人気ぶりを見せつけた。ステージに登壇したのは、細田守監督と聞き手となったアニメ評論家の氷川竜介さんである。トークは、細田監督のサプライズな報告と共に始まった。先月、9月24日に細田監督の奥さんが第一子となる男児を出産、監督はお父さんになったというものだ。「無事元気に育っている」とうれしそうな言葉、そして「もっと感動すると聞いていたが、むしろ、奥さんの大変さに感心した。」と監督らしい冷静なトークも。そして「意外と声がかわいい」との感想を語った。子どもと言えば、子育て。そして、子育てといえば、『おおかみこどもの雨と雪』のテーマにつながる。氷川さんの質問もそこから始まった。普通であれば子育ての体験から子育ての物語が生まれるが、今回は子育ての映画のあとに子育てが始まるとの問いかけだ。これについて監督は、もともと子供が欲しいという憧れが強かった、子どもが生まれたらどのようになるのかを夫婦で語っている中で考えてきたことが映画のなかに流れ込んでいると説明する。「親になったことはないが、子であったことはある。あとは夫婦であるところから考えた」と話す。そして、「花は世界の女性を代表するわけではない。子育ての状況も様々。ひとつのことから普遍性が感じられればいい」と映画の有り様についても語った。さらに、「親子ものの映画は子どもの成長と葛藤により描かれることが多いが、それは『おおかみこどもと雨と雪』のテーマではないので描かれていない。親という役割がいつ始まり、いつ終わるのか、それをひっくるめようと思った」と話すなど、映画を考える際にかなり参考になる話が随所で織り込まれた。とりわけ「花の行動にはこういう意気込みもって子供に接したいという表明でもある」との言葉が印象的だった。何事にも前向きに取り組む花には、監督自身が色濃く反映されているようだ。そして、映画の大ヒットについては、チャレンジな映画がヒットすることで、アニメーションを使った映画表現が面白いことになればいいと話す。映画上映はまだ続くものの、『おおかみこどもの雨と雪』で映画館でトークするのは、今回が最後だという。「感謝しています。ありがとうございました。」との短い言葉に、監督の全ての気持ちが込められているように感じた。[数土直志]『おおかみこどもの雨と雪』http://www.ookamikodomo.jp/