事件事故が発生した際に最も重要なことは何だろうか。一つ挙げるならば「コントロールタワー」の存在だ。
誰かがトップに立って指揮し、状況を整理・統括しなければならない。
しかし、韓国・慶尚南道(キョンサンナムド)の昌原(チャンウォン)NCパークで発生したプロ野球ファン死亡事故をめぐり、所有者の昌原市と管理団体の昌原施設管理公団が「トップ不在」の状況に批判の声が飛んでいる。
昌原施設管理公団にはつい最近まで理事長がいた。ところが、キム・ジョンヘ前理事長が今年1月に突如として辞職届を提出した。任期は2025年12月までだったが、個人的事情を理由にその座を退いた。
ただ、最終的な辞職処理が1月になされてからというもの、2カ月以上が経過した現在も理事長の後任はおらず、代行体制が続いている。
昌原市も市長が不在だ。ホン・ナムピョ前市長は公職選挙法違反の容疑で裁判を受け、1審では無罪だったものの、2審で懲役6カ月、執行猶予1年の有罪判決が下された。その後、最高裁でも判決が確定したため、市長職を失効。現在はチャン・グムヨン第1副市長が市長権限代行を務めている。
死亡事故にファンも不安「上を見てしまう」
このように市全体が不安定な状況下で、去る3月29日に韓国プロ野球球団のNCダイノスの本拠地・昌原NCパークで悲惨な事故が発生した。
当時、球場内では17.5mの高さの壁面に固定された重さ約60kg、長さ2.6m、幅40cmのアルミ製ルーバーが落下し、観客3人が巻き込まれた。このうち、頭部に重傷を負った20代女性が搬送先の病院で緊急手術を受けたが、事故2日後の31日午前に息を引き取った。

すると事故直後の4月1日、公団は「ルーバーは(公団の)安全点検対象ではない」とする報道資料を発表した。現場で取材に応じた公団関係者も「落下した付属物は点検対象ではない。どのように設置されたのか、どのような理由で設置されたのかなどは公団が知ることはできない」と主張した。
ただ、韓国における施設物の安全および維持管理に関する特別法によって、当該の構造物(ルーバー)は(公団の)点検対象であることが正しいことが発覚。すると、公団側は「契約書と法律を誤って解釈していた」と遅れて説明を訂正した。
その後、4月3日にはNCダイノスが報道資料を通じて「NC、昌原市、昌原施設公団の3機関が最近の昌原NCパーク施設物落下事故と関連し、正確な原因究明と再発防止対策などを講じるため、合同対策班を構成して共同協力に乗り出す」と発表する。
公団は当初、事故をめぐる“責任の所在”を追求することに躍起だった。ところが、ある時点から言葉も態度も一変した。合同対策班を構成し、「緊密な協力体制を構築する」と伝えた。あらゆる意味で驚くべき変化だ。

ファンが求めるのはただ一つ。安全に野球観戦がしたいということだ。現場で出会ったとあるファンはこう話していた。
「最近、NCで事故が起きたこともあって、雰囲気が重く感じられた。私も子どもと一緒によく球場を訪れるが、余計に上を見てしまう。もう二度と、誰も痛みを経験しないでほしい」
事故をめぐる残りの課題は「これからどうするか」だ。ただ、その具体策はまだ見えていない。何より、市と公団には例え代行がいるとしても、最終決裁者と言える市長と理事長がいない。
ましてや今回は死亡事故だ。行政や公的機関として、より積極的な対応が求められる場面である。しかし今のところ、実際に行動を起こしているのは球団しかいない。