1月24日より映画『雪の花 ―ともに在りて―』が全国公開スタート。同日に公開記念舞台挨拶が実施され、主演の松坂桃李、共演の芳根京子、役所広司、そして小泉堯史監督が登壇した。
満員御礼で迎えた公開初日。福井藩の町医者で漢方医の笠原良策を演じた主演の松坂は、「時代劇は芳根さんとご一緒した『居眠り磐音』以来ですが、改めて時代劇は良いなと思いました」と実感を込めながら挨拶を行う。


そして撮影を振り返ると、「撮影自体は本当に早くて、小泉監督の現場というものは朝入ったら照明もカメラもすべてセッティングされています。段取り・テストをやって本番という流れで、撮影自体も多くて2、3シーンくらいで昼過ぎ、遅くとも午後3時には終わっている。そこから翌日のリハや本読みをするという、充実した時間を過ごしていました。撮影そのものは過酷ではなく、むしろ健やかなとてもいい状態で毎日現場に行かせていただきました」と語った。
一方で良策の妻・千穂役の芳根は、「毎シーン、小泉監督の『本番!』という声で心臓の音が聞こえるくらい緊張しました。でも監督は自然をも仲間にしてしまう方なので、緊張はしているけれども、自然の音が耳に入って来る心地の良い穏やかな現場でした」と充実した表情を見せる。
京都の蘭方医・日野鼎哉役の役所は、松坂とこれで5度目の共演。「笠原良策という役は、松坂君の誠実で志に向かって諦めない男にピッタリ。普段の松坂君が良い人なのかどうかは知りませんが(笑)、でもこの役は松坂君に合っているし、松坂君しか思い浮かばないような役。男でも惚れちゃう感じがします」とユーモア交じりに絶賛し、松坂は「今日はゆっくりと眠れそうです!」と満面の笑みを浮かべた。

また松坂は役所との共演を回想すると、「役所さんが演じる鼎哉先生の『名を求めず、利を求めず』というセリフが聞こえてきた瞬間、役を飛び越えて僕にも言われているような刺さり方がした。それはこの仕事をさせてもらう中で今まで味わったことのない感覚で、役所さんの目を見て芝居をさせてもらって、その言葉が出てきた時にグサッと刺さった。それが今でも残っていて、僕自身にも来るものがあった。凄かったです」とリスペクトの想いを吐露した。

一方、芳根は自身の太鼓演奏シーンに触れ、「小泉監督が太鼓練習の場に何度も来てくださって、練習経過を見てくださった。来てくださるたびに良くなったと思ってもらえるように頑張ろうと思って、小泉監督が鼓舞してくださることがモチベーションに繋がりました」とコメント。今では太鼓のバチさばきが体に染みついてしまったようで、「細長いものを持つと、手首の角度がバチを持つときのようになってしまい、練習期間が蘇る」とマイクをバチに見立てて凛々しいポーズを取った。
そんな太鼓演奏シーンを間近で見た松坂は、「もう圧巻でした」「現場で会うたびに手首がテーピングだらけでボクサーのようで、太鼓演奏がどれだけ大変だったのか肌で感じることが出来ました。演奏シーンの本番は圧倒されて、終わった瞬間に芳根さんは泣き崩れるような形になって…。あれは忘れられません」と芳根の努力を労った。


撮影時、小泉監督は師と仰ぐ黒澤明監督の私物である薬研を小道具として現場に持ち込んだそう。実際に劇中で使用した松坂は、「博物館で展示するような貴重なものだったりするので、いいんですか!?と。手も震えました」と恐縮しきりだった。すると小泉監督から「あれは黒澤さんの映画『赤ひげ』で三船敏郎さんが使っていたものですからね」と追加情報が飛び出し、「…今聞いてよかったあ」と震えていた。
最後に小泉監督は、本作の撮影を担当した黒澤組の名キャメラマン・上田正治さんが87歳で亡くなったことを報告し、「上田さんにとって本作が最後の作品になります。彼の映像の素晴らしさはスクリーンでなければ観れないと思いますので、上田さんのキャメラを見るつもりで何度も劇場に足をお運びください」と呼びかけ。松坂も「小泉監督が仰る通り、上田さんにしか撮れない作品です。上田さんとはこの作品で初めてお会いしましたが、撮影中はどんな悪路であろうとも自らカメラを担いで歩いて行ったりして、物凄いエネルギーとパワーで撮影現場にいました。その姿を見られて僕は幸せだったと感じています」と語った。