本作は、悪鬼に取り憑かれたク・サニョン(キム・テリ)と悪鬼を追い続ける民俗学者ヨム・ヘサン(オ・ジョンセ)、一連の事件を追う刑事コンビのソ・ムンチュン(キム・ウォネ)とイ・ホンセ(ホン・ギョン)が、それぞれ時に情報共有をしながら、真相解明を目指すオカルトミステリードラマ。
その間、サニョンの周辺で生じる別の不可解な事件も、悪鬼の正体や思惑を突き止める上で役立つこともあり、物語の構造は、回を追うごとに複雑さを増すばかりだ。そこで今回は、これまでに明らかになった悪鬼に関する出来事について改めて時系列順に整理した上で、この先の展開を予測していきたいと思う。(ネタバレあり)
■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
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悪鬼に関する時系列年表
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・1933年、「チュンヒョンキャピタル」の前身となる「チュンヒョン商社」が創業。植民地時代に綿花や米の売買とその斡旋をしていた会社で、手を出した事業は全て成功したが、無理な事業拡大に朝鮮戦争が重なり、次第に資金難に陥っていく。
・1958年、ヘサンの祖父ヨム・スンオクが「チュンヒョン商社」を引き継ぎ、「チュンヒョン相互金融」を設立。妻ナ・ビョンヒと共に、富と権力を得るため、チャンジン里の祈祷師チェ・マノルに大金を積んで厭魅(えんみ/まじないで人を呪い、殺すこと)を依頼。同地域では災いが起きると子どもを太子鬼にし、厄を防いで豊かさをもたらす村の守護神にする習慣があった。儒教の慣習上、長子は守らなければならないため、犠牲となる子どもは必ず次子。マノルは里中の次子を集めるとイ・モクタンに目を付け、「村のために犠牲になる子だからこの子を大事にしろ」という意味が込められた梨種の髪飾りを渡した後、モクタンを殺害して太子鬼にする(イ・モクタン殺人事件)。マノルはスンオクとビョンヒに「先祖代々、この家の家長に悪鬼が憑く。悪鬼はあなたたちと共に望みを成し遂げるが必ず代償を伴う」と告げる。その後逮捕されると、留置場で首を吊って自殺。手首にアザがあり、以降の自殺者たちも同様となる。同年、モクタン殺人事件の記事を書いた記者コ・ギョンホが自殺。
・1965年、イ・モクタン殺人事件の担当刑事ファン・テヒョンが自殺。
・1978年、小学校の教師だったチャンジン里の住民シン・スンジュが自殺。
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・1979年、スンオクの死後、息子ヨム・ジェウが社長に就任し、社名を「チュンヒョンキャピタル」に変更。就任早々、違法貸付の嫌疑で検察の捜査が入るという危機に直面する。しかし、責任者だった大検察庁中央捜査部のイ・テキ部長検事の自殺により、証拠不十分で事件終結に。かなりの綺麗好きだったテキは埃一つない部屋に住んでいたが、なぜか同日に地方出張中だったジェウの指紋が大量に残されていた謎が残る。
・1983年、「チュンヒョンキャピタル」と開発事業権で争っていたテジャン建設のチェ・ウォンチョル代表が自殺。息子がその場面を目撃し、ジェウが殺害したと証言するが、証拠皆無により誰も信じなかった。
・1991年、「チュンヒョンキャピタル」が主導した建設事業の現場責任者キム・スヨンが自殺。
・1995年、「チュンヒョンキャピタル」が主導した建設事業の現場責任者心シン・ギュオンが自殺。
・1995年、以前、民俗学者ク・ガンモがチャンジン里の地域調査をしていた時に偶然知り合ったヘサンの母が、ガンモの紹介で匕首(あいくち/つばのない短刀)が編まれた禁縄(不浄から守るための儀礼用具)を作る巫俗関係者の老婆を訪ねる。彼女は禁縄を5本作ってもらい、「自分に何かあったら誰も祭祀をする人がいなくなるから」と、流産した子どもヨム・へジンへのお経も唱えてもらう。そして夫ジェウの葬式後、病気で寝込んでいたヘサンを連れ出し、最初に日がのぼる(幽霊が嫌う場所)東へ向かうが、自殺。この民泊自殺事件は、ムンチュンが初めて担当した事件となり、その縁でヘサンとムンチュンは長年交流を持つようになる。ヘサンは悪鬼に取り憑かれなかったが、この事件を機に色々と“視える”体質になってしまう。
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・1999年、ソウルの療養病院に認知症で入院していた、モクタン殺人事件の際にチャンジン里の村長だった人物が息を引き取る。親類はおらず、保証人だったガンモが死亡時の所持品を受け取る。イ・モクタン殺人事件の証拠も入手し、ビョンヒのもとへ。スンオクとビョンヒが女児を殺して悪鬼にして一族を再興させたこと、ビョンヒの嫁がヘソンに悪鬼が憑くのを阻もうとしていたことまで突き止めていると話した上で、「悪鬼の退治方法は分かったが、悪鬼を手に入れる方法を知りたい」と相談するが、門前払いされる。同年、ガンモは視神経萎縮を患い、眼科を初受診。その後、早い時は1~2年、遅くても6年以内に失明すると診断されていた。
・2000年、ガンモを「エセ学者で詐欺師だ」と名指しで批判していたソ・サンフン教授が江南の食堂のトイレで自殺(刺身店殺人事件)。
・2002年、チャンジン里同様、厭魅文化の一つ「人形送り」(客鬼退治の一種)で有名なペクチャ谷に住むガンモの義母イ・オクチャが井戸に身投げして自殺。その少し前に、ガンモの妻ユン・ギョンムンが実家で第二子を流産している。その頃、ガンモの第一子サニョンは5歳だった。
・2007年、ガンモの教え子である公務員ファン・チャヒが自殺(京畿道北部貯水池自殺事件)。同年、ガンモは引退する。
・2022年、図書館の司書チェ・ソリンが自殺(江北アパート自殺事件)。彼女は前日にガンモと会っていた。同年、眼科医がガンモと偶然再会するが、ガンモは失明しておらず目に異常はない様子だった。
・2023年、ガンモが自殺。そのすぐ後、サニョンの母ギョンムンを騙した振り込め詐欺犯イ・オッキュが自殺する。現場にいなかったにも関わらず、オッキュのカードや鞄などにサニョンの指紋があちこちに付いていた。同年、サニョンの祖母キム・ソンナンが自殺し、唯一の遺産相続人だったサニョンは生活苦から解放される。
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同じ悪鬼が全く異なる一家に受け継がれたのはなぜか
8話までに判明したのが、悪鬼の退治法だ。ガンモの調査資料に書いてあった「悪鬼の邪気を帯びた物は殺された者の気でのみ制することができる」という方法で、「殺された者の気」とは、悪鬼のせいで誰かが死んだ場所を指す。5つの物を禁縄で巻き、悪鬼の名前を赤文字で書いた札を燃やし、その場所に埋める。
モクタンの場合は、祈祷師マノルが死亡時に持っていた髪飾り、甕(かめ)の欠片、黒いゴム紐、玉(ぎょく)のかんざし、ガラス瓶だ。ヘサンの母は自殺前、甕の欠片を地面に埋めており、髪飾りも所有していた。その後、どちらもガンモの手に渡り、ガンモは甕の欠片を義母オクチャの実家に埋め、髪飾りをサニョンへの遺品にしている。ガンモは京畿道北部貯水池自殺事件が発生した貯水池のほとりに黒いゴム紐も埋めていた。残り2個は、刺身店殺人事件と江北アパート自殺事件の跡地にあると予想できる。
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また、ガンモに関連する自殺者は、自身にとって都合の悪い人物であった教授(2000年)と義母(2002年)の後、教え子は2007年、司書は2022年と間が空いている。悪鬼の気を制するには、自身に悪鬼が取り憑いてから生じた自殺事件の跡地でないといけず、一度取り憑かれたら5人の犠牲者を出すことから免れられないことに気づいたのではないだろうか。
さらに、スンオクとジェウが4人の自殺者を出してから亡くなっていることから、5人の犠牲者のうち1人は、悪鬼が憑いている本人も含まれているようだ。ガンモが、通常なら外に括るはずの禁縄をあえて部屋の内側に取り付けていたのも、自らを部屋に閉じ込めていたと考えれば辻褄が合う。
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それにしても謎なのが、ガンモが悪鬼の入手方法を聞いていたことだ。民俗学者としての興味関心からなのか、富や名声に目がくらんだからなのか。現在のサニョンと同じ症状を発症していたことから、1999年のビョンヒの訪問後、ガンモは悪鬼に取り憑かれることに成功したと考えられる。
「チュンヒョン」一族の末裔ヘサンに取り憑かなかったモクタンが、関係のないガンモにどうやって取り憑いたのか。ヘサンの実家にあるはずのカメラの現像写真が、なぜガンモの実家の引き出しに入っており、モクタンがサニョンにその写真を見せたのか。この先のエピソードで、1995年と1999年に何が起こったのかが明かされていきそうだ。
次なる犠牲者はホンセに?
8話ラスト、サニョンがソウル警察庁強力犯罪捜査隊のビジョンを見たことから、ヘソンはムンチュンの身を案じ、警察庁へと急ぐ。「扉をたたく音がしても開けないように」と電話で忠告をしていたが、ヘソンがやってきたと勘違いし、ついホンセが扉を開けてしまう。そこにはサニョンが立っていた。詐欺師と祖母の自殺以来、サニョンをマークしている警察たちが次なるターゲットに選ばれてしまったのだろうか。
未解決事件ばかりを抱える“オカルト刑事”のムンチュンは、警察学校首席だったホンセに対し、たびたび出世欲があることについて苦言を呈している。ホンセは否定するが、庁内では彼が昇任したがっているという噂が流れており、また自身の周辺で事件が起きた際に担当刑事たちを出し抜こうと躍起になったり、ムンチュンに押し付けられる地味な仕事を放り出して喧嘩腰になったりと、彼は時たま言動が一致していない。
刑事コンビがサニョンからの魔の手を逃れたとしても、心に隙のあるホンセは、いずれ何かしらに取り憑かれて暴走する可能性があるのではと予測している。
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残り4話。サニョンは新たに2名の犠牲者を出し、自身も死んでしまうのか。誰かに受け継ぐことなく悪鬼の気を制することはできるのだろうか。
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