カリスマ知能犯が仕掛ける造幣局強盗
本家『ペーパー・ハウス』のシーズン1・2は、“教授”と呼ばれるセルジオ・マルキーナ(アルバロ・モルテ)指揮のもと、世界各国の都市名をコードネームにした8人のメンバーがスペイン王立造幣局に侵入し、24億ユーロを盗もうと試みる物語。造幣局内で67人を人質に取ったチームは、11日間内部に留まり、エリート警察部隊との攻防を繰り返しながらお金を刷り、脱出を図る。韓国版『ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え』は、基本的にこの2シーズンを凝縮させたものだ。
主要キャラクターも大まかには同じで、強盗団のメンバーは、首謀者の“教授”パク・ソノ(ユ・ジテ)、北朝鮮の元捕虜“ベルリン”ソン・ジョンホ(パク・ヘス)、指名手配犯の“トーキョー”リ・ホンダン(チョン・ジョンソ)、熟練ハッカーの“リオ”ハン・ヨセフ(イ・ヒョヌ)、元囚人の“モスクワ”オ・マンシク(イ・ウォンジョン)、モスクワの息子で元ストリートファイターの“デンバー”オ・テクス(キム・ジフン)、詐欺師の“ナイロビ”シム・ヨンムン(チャン・ユンジュ)、ギャング兄弟の“ヘルシンキ”ミョンテ(キム・ジフン)と“オスロ”サンヨン(イ・ギュホ)。
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プライベートでは教授と知らずにソノと恋愛しつつ仕事中には教授と頭脳戦を繰り広げる危機交渉チーム長のソン・ウジン(キム・ユンジン/スペイン版のキャラクター:ラケル)、自分だけ生き残ろうとする卑怯な男=造幣局長官チョ・ヨンミン(パク・ミョンフン/スペイン版のキャラクター:アルトゥーロ)、デンバーと恋に落ちる造幣局職員ユン・ミソン(イ・ジュビン/スペイン版のキャラクター:モニカ)、警察の全面突入回避策として目を付けられた大使館の娘アン・キム(イ・シウ/スペイン版のキャラクター:マリア)など、強盗団以外のキャラクターたちの役割もほぼそのままだ。
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南北統一というオリジナルストーリー
大きな違いは、下層階級の犠牲のもと築かれた共同経済圏によって南北統一された韓国が舞台であること。スペイン版、韓国版いずれもトーキョーの自分語りから始まるのだが、その背景は韓国版の方が重い。北朝鮮の軍人だったトーキョーは成功を夢見て韓国に渡るが、仲介業者に騙されて借金まみれに。闇金業者の横暴さに耐えかねて人を殺めてしまう。ベルリンの半生も過酷だ。脱北に失敗して家族と生き別れ、25年間捕虜として生活。その間、暴力を厭わない冷酷な人物になり頂点へと上り詰めた。
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また、スペイン版の教授が強盗を計画した真の目的は、父親が貧困に喘ぎ銀行強盗をしようと試みて射殺された過去もあることで反体制主義となり、“誰が本当の盗人なのか”を世間に知らしめることだった。韓国版の教授の目的も基本的には同じだが、背景が異なる。大学教授時代に南北統一に向けて考案した経済モデルが政治家に悪用されてしまったことがきっかけだ。
もう一つの大きな違いは、“ソウル”(イ・ジヨン)というオリジナルキャラクターが登場したことだ。造幣局外部にも仲間がいる設定は同じだが、のちに、ソウルはベルリンの恋人で、北朝鮮の指導者の娘であることが判明。最後は自爆を試みたベルリンのもとへ駆けつけて彼を救う役割を担っている。
『ペーパー・ハウス』はやっぱり面白い
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結論としてどうだったかと言うと、原作ファンである筆者は『ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え』を楽しめた。本家シーズン1を観たのが5年ほど前で細かな箇所を忘れていたので、「そういえばこんなことあったなぁ」などと懐かしみながら、教授の計画の緻密さに再び感心することができたのである。基盤となる物語がとても良くできているから、面白くならないわけがない! 映像も迫力があり、第8話でベルリンがアンを逃さまいとビルから飛び降りるシーンなどは目を見張るものがあった。
各俳優陣は、オリジナルキャラクターの特徴を踏まえつつそれぞれの魅力を発揮しているハマりっぷりで、キャスティングの時点でも成功と言える。特筆すべきは、デンバー役キム・ジフンと造幣局長官チョ・ヨンミン役パク・ミョンフン。ジフンは、確かに強盗犯であっても恋に落ちざるを得ないと思わせる説得力のあるキャラクター像を生み出していたし(好みの問題もあるが、彼に関しては原作越えだと思う)、ミョンフンは、画面に出てくるだけでイライラしてしまう姑息な男を上手く演じていた。
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とはいえ、100点満点中で言えば70点というところ。24エピソードの内容を半分の尺にまとめているので、強盗をする前の準備段階の様子や各キャラクター背景などの過去回想シーンが割愛されていた点において、物足りなさを感じたのは否めない。それにより、教授のカリスマ性がやや薄れてしまったのは残念。スペイン版では丹念な準備背景が種明かしされながら物語が進むので、警察の裏の裏をいく教授の頭脳明晰さが際立っていたのだ。
少々辛口かもしれないが、それは期待しているからこそ。原作ファンも意識しながら独自のエッセンスを振りかけながら物語を創り上げるのは容易ではないことであろう。今回は、他国ではできない“南北統一”をうまく物語に組み込んでいたが、もし次シーズンも製作されるのであれば、その要素をより発展させた韓国ならではの強盗物語をもっと観てみたい。
※Netflixシリーズ『ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え』独占配信中
■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。