原作は、フランスの大ヒットドラマ『エージェント物語』(こちらもNetflixで配信中)。舞台が芸能事務所なので、演者たちの背景で実際に同じようなやり取りが繰り広げられていることが想像でき、メタ的構造であることが大変ユニーク。所属俳優役として、ビッグスターたちがそのまま本人役として出演するのも見どころだ。
本家『エージェント物語』はどこか哀愁漂うシュールな作風なのだが、韓国版の『エージェントなお仕事』は、ファンキーなBGMのチョイスや時折挟みこまれるファンタジー演出の効果などもあり、ポシティブなヴァイブスを感じる愉快なお仕事エンタメ作品へと仕上がっている。物語の展開はほぼ同じだが、細かなところでお国柄を感じる変更点もあり、本家と比べる楽しみも味わえる。
今回の記事では、その世界観に少しでも興味を持ってもらえるよう、物語の中枢を担う4人のキャラクターたちを紹介したいと思う。(以下ネタバレあり)
不器用な面もあるがそれも良い、キム・ジュンドン チーム長
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物語冒頭に映し出されるのは、プロペラ付きヘルメットにモッズコートという出で立ちで、小型バイクにまたがるキム・ジュンドン。「メソッド・エンターテインメント」のチーム長で、平和主義者で涙もろく義理堅い、人間味のある人物だ。それゆえ、1話ではベテラン俳優を傷つけまいと空回りすることになってしまう。もっさりとした見た目や、物事が上手くいかず不貞寝することもあるなど、あまりカッコいい主人公とは言えない。だが、所属俳優たちに真摯に向き合う姿に、いつの間にか応援したい気持ちが芽生えてしまう。
演じるのは、2022年に主演映画『サンダーバード』での演技が評価され、「第26回富川国際ファンタスティック映画祭」の「ファンタスティック俳優賞」に輝いたやや遅咲きの実力派、ソ・ヒョヌ。筆者にとってはドラマ『みんなの嘘』で演じていた生気皆無な悪役の印象が強かったため、今作での振り切ったコメディエンヌっぷりには大層驚いた。サスペンス作品への出演が多い分、ギャップがたまらないのである。
利益を追い求める合理主義者、マ・テオ 総括理事
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ジュンドンが事務所に戻った際、まず最初に視聴者に紹介されるのが「メソッド・エンターテインメント」の総括理事マ・テオ。戦略家で成果主義者、幹部向きの人物だ。一流大学出身のやり手で財閥家出身の妻を持つ、まさに勝ち組人生を謳歌する男である。しかし、事務所や自身の利益を追うことばかりに気を取られ、失態を犯すこともしばしば。ズル賢く立ち振る舞おうとするが、なんだかんだ「メソッド・エンターテインメント」への愛が捨てきれない、憎みきれないキャラクターだ。
演じるのは、ベテラン俳優のイ・ソジン。ドラマや映画のほか、『花よりおじいさん』や『三食ごはん』などのバラエティ番組への出演でよく知られる、お茶の間の人気者である。企画の初期段階から参加し、今作の記者会見でも盛り上げ役を担っていたソジン。すでに本家よりも親しみのあるキャラクターを創り上げているが、バラエティで培った経験をフルに活かし、独自のアドリブで魅せてくれることに期待したい。
仕事人間で男癖の悪い、チョン・ジェイン チーム長
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部下に細かく指示出ししながら登場するのは、「メソッド・エンターテインメント」のチーム長、チョン・ジェイン。勝負欲の化身で仕事一筋、かなり我が強い人物だ。プロフェッショナルに徹しているが、その分部下にも厳しく、1話早々で彼女のパワハラにより部下が辞職。頼りがいがあり決して悪人ではないが、ストレートな物言いで誤解を招くことが多い。また、真剣交際お断りのスタンスで、性に奔放なところがある。
演じるのは、『賢い医師生活』や『調査官ク・ギョンイ』など、話題のドラマ出演が続いているクァク・ソニョン。スタイリッシュな装いで仕事をテキパキとこなし、自身の武器を最大限に使いこなして火遊びを楽しむ役を生き生きと演じている。「仕事を絶対に成功させる」「欲しいものは必ず手に入れる」といったジェイン像は、観ていてパワーをもらえる。
控えめだが仕事に真摯に向き合う新人、ソ・ヒョンジュ
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スタッフが慌ただしく行き来する「メソッド・エンターテインメント」にやってきたのは、テオの隠し子ソ・ヒョンジュ。母が営む美容室でアルバイトをしていたが、芸能人のマネージャーになることを目指し、釜山からソウルに上京。テオから追い返されるも、ジェインの部下が辞職する現場に立ち合わせ、その場で立候補したことで、晴れて業界入りを果たす。昨年大学を卒業したばかりで初々しく、控えめな性格。だが、若者世代であることを強みに、徐々に事務所の戦力になっていく。
演じるのは、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で大ブレイクを果たしたチュ・ヒョニョン。コミカルでハジけまくっていた『ウ・ヨンウ~』トン・グラミ役とは180度異なる役柄で、笑顔一つとってもまるで別人。事務所の新人俳優ウンギョルに釜山の方言をレクチャーする胸キュンシーンなど、新たな魅力を見ることができる。
ほかにも、事務所の重鎮であるチョン・ミョンエ理事(シム・ソヨン)や、ムードメーカーなチェ・ジニョク広報担当マネージャー(キム・テオ)、テオに恋するしっかり者ユ・ウンス事務総括(キム・グクヒ)、俳優が本業である受付担当カン・ヒソン(ファン・セオン)など、本家を踏襲した個性豊かなキャラクターが登場。
事務所経営トラブルやビッグスターたちによるアクシデントに一喜一憂しながら成長を遂げていく彼らの姿は、特に仕事をしている人には共感できる面もあり、勇気づけられることもあるはず。明日への活力にオススメのシリーズだ。
※Netflixシリーズ『エージェントなお仕事』独占配信中
■筆者プロフィール 山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くさすらいのフリーライター。映画・海外ドラマおたくだが、コロナ禍に人生二度目のカン・ドンウォンのブームが到来し、出演ドラマも鑑賞したことで韓ドラの世界に興味を抱くように。さらに『ヴィンチェンツォ』を観て完成度の高さに度肝を抜かれ、韓ドラにのめり込む。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。映画・海外ドラマ・韓ドラを網羅したいため、観たい作品に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。2022年現時点でのベスト韓ドラは『私の解放日誌』。